経営コンサルタント 吉田繁治氏

今の金融危機から経営戦略、小売流通まで 数字を用いて、根拠つまびらかに論じます

吉田繁治氏
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8年前、「ビジネス知識源」無料版を、創刊。画面で読むeメールのマガジンとしてどうあるべきかを考え、他のメディアでは得にくい「ビジネスの知識価値」を、お届けしようと試行しました。創刊から約3000名の読者登録があり、力づけられました。お陰で、現在の読者数は3万4000人を超えています。

7年前、有料版が開始されました。読者アンケートをとると700通近い回答が寄せられ、90%くらいの人が有料版発行に賛成でした。妥当な平均価格は1ヶ月1000円くらいが中心でした。創刊から3桁を超える読者があり、全部門で1位で、2008年には初めてメールマガジン内でお願いしたところ「まぐまぐ大賞2008」も受賞できました。責任を感じています。

私にとって、有料版・無料版のメールマガジンは、様々な論考・考察・原理化についての、発表の中心になっています。テーマの幅は、経営戦略・経済・流通・IT・金融・社会、随想(エセー)等です。

心がけていることは、(1)最新の原理、(2)論理の透徹、(3)判断の根拠の明示、(4)基礎に至る、(6)モデル化することです。あらゆることに共通しますが、多くの人が疑問をもたず通り過ぎる、基礎とされていることに、難しいことが含まれています。そこを、解きほぐす。そのため、基礎が、実は、頂点に来ます。短い論考でここに至らねばならない。

文のスタイルでは、肝心なところでは、形容詞・副詞を最小限に避け、名詞、動詞、数字で書くことです。そして、考えや想いの根拠を示すことです。「きれいな薔薇」と形容詞で言えば、私の勝手な思い入れに過ぎない。理想は、きれいな薔薇と言わず、読む人が「きれいな薔薇」を映像のように感じることができる書き方です。これは難しい。そのため、毎回が冒険です。修行、練習です。

冒頭で「ビジネスの知識価値」と言いました。百科事典のような量ではなく質です。基礎が応用できることです。映像化され、モデル化された知識は、実際の場面で他に応用ができます。

幅が広すぎると思われる方も多いようですが、基礎に至ることができると、いろんなことには、共通部分が多い。幅は、外見上(タイトル)で広いように見えるだけです。学際的という言葉がありますが、その点では学際です。学はサイエンスです。科学的と言えば、学際になるはずです。他の業種の会社に、自分が働く業種の、これからのヒントが隠れていることは、しばしばあります。

流通のヒントが経済、経済のヒントが会計、金融が数学だったりします。経営のヒントが倫理であることも多い。一見では無縁の武士道も、現代経営にもつながる。書いているとき、そう感じます。宗教的な世界観(外部世界と自分についての見方)や道徳が、会社経営の価値観(重視すべきこと)のもとになっていることがある。

究極は、生き方です。あらゆる学は、現象をどう見るべきか、どう判断し、自分がどう生きるべきかの探求を始原とします。しかし、高度に(または細部に、あるいは専門に)分化する過程で、最初にはあった見方、生き方のところが、枝葉の多様で見えなくなっています。森に分け入って、幹と根を探す。幹は別でも根は大地に共通です。細胞レベルならもっと共通です。ビジネスや仕事も、生きる方法でしょう。

われわれが遭遇する「現象」は多様ですが、「原理と基礎」は共通であることが多い。その意味での、お届けする論考を、ビジネスと仕事の成功のための「原理的な、基礎知識源(ナレッジ・リソース)」にしていただくことが希望です。

読者の方からのご支援が、書く力を与えてくれます。書いて送る場を提供していただく多くの読者の方に、感謝しています。今、多くの人が原理的なところから考えたいとされてることを、戴く感想で、感じます。

2009年 正月

発行者プロフィール
吉田繁治(よしだしげはる)
東大フランス哲学専攻(実存主義、構造主義)。経営と情報システムのコンサルタント。各社の経営顧問を歴任。戦略的システム開発でシステムデザインを担当。最新かつ高度な経営原理を、わかりやすく実践的に提供することに定評。
  • ・(旧)通産省 情報処理振興審議会 専門委員等
  • ・通産省のシステム開発公募事業で、4つのシステム開発を受託し、開発実験
  • ・海外研修米国 先端流通業、物流システム、IT、金融等の視察・研修
  • ・講演時間 延べ7,000時間以上
  • ・小売・卸大手の経営戦略、商品戦略、業務戦略等の経営顧問
著書に、「ウォルマートに学ぶデータ・ウエアハウジング」、「利益経営の技術と精神」などがある。
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<418号:やおら出てきた政府紙幣と無利子国債を検討すれば>

       2009年2月11日号:金融と経済
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著者へのメール    yoshida@cool-knowledge.com
著者:Systems Research Ltd. Consultant吉田繁治
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こんにちは、吉田繁治です。「金融経済」における巨額損が、世界の
「実体経済」の生産・流通に波及し、雇用にまで至るようになりまし
た。

原因は、米国世帯の、ローンで買っていた消費($1兆:90兆円/年)が
消えたからです。米国世帯の負債が$15兆(1350兆円)になって、反転し
た。

日本の輸出は、GDPの15%(約80兆円)です。これがわずか3か月で30
%(24兆円)くらい減った。乗数効果を入れれば、今後、これがGDPの
うち50兆円(10%)を減らすことになります。

米欧日が、同時に「経済の準恐慌(失業率10%:GDPの10%収縮)」に
至る過程が、現在です。唯一の対策は、政府部門による、需要創造で
す。

ケインズ策と言っていい。

(1)政府が国債を刷り、それを民間や中央銀行に買わせる。
(2)政府は、新規国債発行額に見合う現金を得る。
(3)その現金で、公共事業をし、需要を作って失業を防ぎ(需要創造)
(4)金融にも資本を入れ、信用収縮を防ぐ。

【重要】しかし・・・今回の金融危機・経済危機で問題になるのは、
「民間が、増発される巨額国債をどの程度買えるのか?」、「中央銀
行が、国債をどの程度買えるのか」ということです。

【認識】先進諸国(10億人)の世帯の貯蓄額は、戦後ベビーブーマー
(約1億人)が一斉に退職期に入ったため、増えていません。逆に、年
金基金が取り崩される時期になっています。60歳以上になれば医療も
3倍に増え、政府財政が枯渇する。(注)日本では現役世代の医療費は
1人15万円/年、65歳以上は65万円/年です。

つまり民間には、経済対策のため、これから発行される巨額国債を買
う資金源がない。

●国債発行によって政府が需要創造をするケインズ策は、
(1)民間(世帯と企業)に消費や投資に使われない貯蓄増があり、
(2)その貯蓄が金融機関に増えていて、
(3)企業が投資のために借りないときのみ、有効です。

2009年以後は、
・先進諸国が等しく行うケインズ策とは言っても、
・「4億世帯の余剰貯蓄の増加」という背景のない、
・国債発行にしかならない。

【認識】米国の、金融・経済対策のための必要資金は、ゴールドマン
サックスの直近の試算では、$4兆(360兆円)とされています。

オバマ大統領が、形容詞が多い修飾語のスピーチで決めたのは、まだ、
$8000億(72兆円)の対策に過ぎません。

ところが、金融と経済対策のための必要資金は、ゴールドマンが言う
$4兆(360兆円)でも足りない。

【損失の拡大は現在進行形】今、米国は1ヶ月に$1兆(90兆円)くら
いの規模で、金融機関、企業、世帯の合計損失が拡大中だからです。

一例を言えば、住宅価格は40%下落に向かい、現在進行形で下落中で
す。

米国住宅ローン関連証券($12兆)の流通市場は、消えたままです。
住宅が下がり切って、再び売れるようになるまで、続きます。

米政府の国債発行は、2009年中に、いくらになるのか。
$2兆~$3兆を超えるかも知れません。誰が買うか? 

【海外が買っていた】07年度の、米国の新規国債は、94%を海外(日
本・中国・中東)が買っていましたが・・・貿易黒字が減れば、理の
当然として買えません。

国債は、売れなければ売れる額に価格が下がり、金利が上がります。
そのため、奇策であるアメロや新ドル発行の「噂」もある。

本稿は、以上のような問題を、包括的に解きます。
一体、どうなるのか?

企業経営にとって、昨年秋からの突然の不況がどうなるのか、いつま
で続くのか、深化するのか、政府の対策で回復するのか、重大な関心
であるはずです。

すこし妙な例ですが、1500店があるという大阪の飲食街、北新地では、
11月以後、ほぼ全店で30%以上、売上が減ったと言う。飲食店には、
好況と不況の経済変動が、強く表れます。今、実に、閉店が多い。

他方、言葉と数字で指導しているディスカウント型の中堅小売では、
14店の既存店(平均で700坪の大型店)が、昨年3月以来、継続して30
%も売上げを増やしています。

百貨店が10%売上を減らした08年12月と09年1月も、前年同月比で30%
増が続いています。

1年前に開店した新店では、前年比60%増。出店には、積極的です。今
年は、4店でしょうか。こんなに売れていいのか、周囲の店の売上減が
逆に心配・・・と思うくらい。社員の目が輝いています。

この店舗の改革の方法は、原則を一般化しながら、別稿で、まとめて
お届けします。単に、ウォルマートの初期の方法(1960年代~70年代)
を、応用して行っているだけなのですが。

──────────────────────────────

 <418号:やおら出てきた政府紙幣と無利子国債論を検討すれば>
          2009年2月11日分

【目次】

1.日本政府の国債発行に、ドン詰まりが生じた
2.政府紙幣の検討
3.国債発行による、需要創造の流れ
4.各国政府の経済対策で、金融危機・経済危機は救えるか?
5.2000年代のトルコのインフレと金利
6.どんな形の、インフレの可能性があるのか

──────────────────────────────

■1.日本政府の国債発行に、ドン詰まりが生じた

日本では、政府紙幣やゼロ金利国債も、言われるようになった。
理由は、09年度に予定されている、33兆円の新規国債発行の買い手が、
少なくなっているからです。

なぜ、買い手が少ないのか。

(1)金融機関に余剰資金がなくなったこと。
(2)金融市場が将来の物価と金利上昇を予想し、
(3)国債価格の下落リスクを見ているからです。

▼日銀と国債

財政法では、日銀が財務省から直接に国債を買うことは禁じています。
一旦は民間金融機関(銀行、生保)、及び政府系金融機関(郵貯・簡保、
年金基金等)が買ったものを、日銀は市場で買う。

現時点で、日銀の国債保有残高は77兆円(資産のうち国債+買い現先)
です。

(注)現先で使われるものも国債です。買い現先は、一定期間後に、
国債を契約価格で、日銀が売ることを約束した買いです。売り現先は
その逆です。

日銀の資産としての国債77兆円は、1万円札の紙幣発行高(負債)77兆
円(77億枚:国民1人あたり61枚)と見合っています。つまり、日銀は
保有国債77兆円に見合う紙幣を、発行しています。(09年1月31日)
http://www.boj.or.jp/type/stat/boj_stat/ac07/ac090131.htm

日銀のB/S(バランスシート)の結果を見れば、日銀が国債を直接に財
務省から買ったのと、何ら変わらない。

じゃ、財政法が日銀の直接引き受けを禁じる理由は、何か?

●「一旦は、市場で金融機関が買うというクッションを置く」ことで、
政府の、戦時のような無際限な国債発行を押さえるためです。

・金融機関に、国債を買う余剰資金(短期資金)があり、
・国債の額面金利(表面金利)が妥当だという判断がなければ、
 金融機関も買わないからです。

これが、金融の秩序です。

▼GDPのマイナス予想

今、(財務省の内々では)、日本のGDPは2009年度、2010年度と少なく
とも2年間、[-2%~3%/年]という予想です。米国も、欧州もGDP
のマイナスは同じです。

日本のGDPのマイナスは、麻生内閣の所信表明演説「2011年度に経済回
復を目指す」ということから、明らかになることです。

(注)GDPについての政府予想(内閣府のマクロ経済計算)は、常に、
期待や希望を、2%分(10兆円)くらい含むことを知っておいてくださ
い。

GDPのマイナスが意味するのは、金融機関に、2009年度に発行を予定す
る33兆円の超低金利の新規国債(現在の短期金利0.61%:長期金利1.
35%)を引き受ける余剰資金は、ないということです。(注)実際は、
法人税収と所得税の急減のため、40兆を超えるでしょう。

▼国債金利の上昇

金融機関が買うには、長期国債の発行金利を、2%~3%に上げねばな
らない。国債の下落リスクがあるからです。

しかしこれは市場金利の上昇と、既発の国債・地方債(約800兆円)の
市場価格が、今の価格から5%~10%下落すること(損失が40~80兆円)
を意味します。(注)計算は後述。

同時に金利上昇で、金融の縮小と経済不況の深刻化が起こってしまう。
企業には利払いの赤字が増えます。

国債残が少ない時期なら、1%や2%の金利上昇は、なんということも
ない。

しかし、国債・地方債が800兆円の残(他に短期借り入れ200兆円:合
計1000兆円)です。

それを民間と日銀を含む政府系の金融機関が保有しています。1%の金
利上昇で生じる5%の債券価格の下落は、40兆円もの損を生むので、穏
やかではない。

2009年度に33兆円の新規国債を発行すれば、引き受け手が少ないので、
国債価格が下がり、金利が上がる。

800兆円の既発国債と地方債が、40兆円(5%)~80兆円(10%)も下
落すれば、経済対策の全体としての、国債発行の効果はない。

国債を持つ金融機関の損を、また、政府が埋めなければならなくなる
からです。これが、国債発行のドン詰まりです。

国債発行が有効でなく、逆に、金利を上げ、既発の国債価格を下げて
しまう。

国債下落による損(金融機関の実質的な自己資本の減少)が生じれば、
金融機関は、再び、資産を縮小しなければならなくなります。

無理な国債発行で金利が上がった結果は、金融の縮小になる。つまり、
金融機関の債券売り、株売り、国債売り、貸し剥(は)がしです。

政府の経済対策(33兆円の国債発行と経済対策)の、効果が消えるど
ころか、逆の、国債の下落による信用危機からの経済縮小になる。

わが国にとって、市場の金利が上がり、800兆円の国債・地方債が下落
することよる金融機関の信用危機は、米国の住宅価格下落(住宅ロー
ン$12兆)による信用危機より大きくなります。

GDP(その国の経済力)に対する金額で言えば、
・日本にとっては国債・地方債が、
・米国にとっては住宅証券が、問題なのです。

以上で描いたような、「低金利の国債が金融機関に売れない」という
背景で、「政府紙幣」及び相続税を引き当てる「無利子国債」論が出
た。

(重要な注)実際、08年秋には、国債で「札割れ」、つまり、発行さ
れた国債が十分に引き受けられない事態が起こり、財務省は、金利が
上がるので、その国債を、ひっこめています。

新聞は、昨年とても小さく、この重要なことを報じた。財務省は札割
れ以降、政府紙幣や無利子国債を言うようなったのです。

財政法を改訂し、日銀が、財務省から直接に国債を買う方法もありま
す。

しかしこれは、市場が国債を買う余力がない(資金がない)ことを、
大声で、国内と世界の金融市場に、伝えることを意味します。

結果は、上記と同じ、既発国債の下落と、金利の上昇です。

■2.政府紙幣の検討

政府紙幣とは、財務省が直接に「財務省券」を発行することです。日
銀券1万円に対し、財務省券も1万円とする。紙幣に、日銀券の代わり
に、財務省券と書く。

(注)コインは、日銀ではなく財務省が発行しています。100円玉や5
00円玉に「日本国」と書いてあるでしょう? コインは、補助通貨で
す。そして財務省は、[コインの額面(500円)-鋳造コスト]を利益
に計上しています。500円玉20枚を、日銀の1万円札と換えるからです。
この1万円が、政府収入になる。政府紙幣の発行も、このコインのメカ
ニズムと同じです。

・低金利の国債が市場で売れにくい。
・無理に多額を発行すれば、国債価格が下がり(市場の金利が上がっ
 て)、経済はますます縮小する。
・国債を通貨とするわけには行かない。

そのため、政府紙幣を発行するという苦肉の策です。

実際、通貨は、国民や海外に価値が信用されるのものなら、なんでも
いい。麻生さんがサインした小切手を日銀に渡してもいい。問題は、
その流通価値が、国民に信用されるかどうかです。

信用されなければ、額面に対する欠け目が出ます。
政府紙幣1万円と言っても、9000円の価値しかないと市場が見れば、9
000円としてしか流通しない。

つまり金利が10%以上になる。金利とは、通貨価値の下落を補うもの
です。ここ、が問題なのです。

【重要】実は、物価が上がることを、インフレというのではない。通
貨の価値下落こそを、インフレと言います。通貨価値が下がるから、
その通貨で計る物価が、上がったように見えるだけです。

中国ではインフレを通貨膨張と言いますが、これが、経済学的に正し
い。

インフレの時は、通貨価値の下落(購買力の低下)が想定されるので、
それを補うために、金利も上がるのです。

マネーをもつ人は、物価の期待上昇率以上の金利でないと、貸さない。
これは、理の当然でしょう。

貸す側から言えば、[金利=物価の期待上昇率+回収のリスク率]で
等価です。この金利条件を満たさねば、金融取引が行われない。

▼インフレ(通貨価値の下落)と金利の原理

常識は、1万円札は来年も1万円札とするため、商品が1万1000円になる
と、物価が10%上がったと言う。しかし、これは真実ではない。ケイ
ンズはこれを「貨幣錯覚」と言った。

同じ1万円の商品は、来年も1万円の価値だからです。
値札が変わるので、上がったように見える。

実際は、1万円札の商品との交換価値が、9000円に下落している。1万
円の価値の商品を買うには1000円不足する。そのため1万1000円を払う
ことになる。これが、10%のインフレ(消費者物価上昇)です。

他方、1万円を貸す側は、その価値が、来年に9000円に下がってはたま
らない。そのため。1万円を貸すとき。[10%以上の金利率+リスク率]
を要求する。ここから、物価と金利の関係の原理が導かれます。

【原理】金融市場の金利は、予想物価上昇率に回収のリスク率を加え
たものに正比例して上がる。

金利の原理を言えば、経済に対し中立的な金利は、
[長期金利=GDPの期待成長率+物価の期待上昇率]です。

(注)中立的な金利とは、経済を刺激も縮小もさせない金利水準です。
この金利が[GDPの期待成長率+物価の期待上昇率]より低いときは、
借りる人が増え、消費と投資が増えて経済は刺激されます。

逆に、後で述べるトルコの2000年代初期のように、金利が[GDPの期待
成長率+物価の期待上昇率]より相当高いと、貸し手は多くなるので
すが、借り手が減って、消費と投資が抑制されるため物価野資産の上
昇率は下がって行きます。

【重要な変化】ところが今、世界の長期金利(10年もの国債の利回り)
は、FRB、ECB、日銀による低金利策にもかかわらず、上がりつつあ
ります。

これはGDPの上昇期待からではない。先進国の2009年のGDPは、マイナ
ス予想です。

【認識】金融市場は、今、「将来の物価上昇」、言い換えれば「通貨
価値の下落」を想定しています。そのときの通貨価値の下落を補うの
が、金利です。以下の変化は、見かけ上ではわずかですが、金利水準
が低い金融市場にとって、大変化です。

長期金利  40日間での上昇幅(08年12月比)
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
米国    2.98%   0.76ポイント(26%)
英国    3.74%   0.72ポイント(20%)
スペイン  4.49%   0.67ポイント(15%)
ドイツ   3.38%   0.43ポイント(13%)
フランス  3.79%   0.38ポイント(10%)
イタリア  4.57%   0.19ポイント(4%)
日本    1.34%   0.17ポイント(13%)
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
(日経新聞09.02.10)

以上のように、先進国の金融市場は、40日で10%~26%も上げ、通貨
価値の下落(=物価上昇)を想定しています。ここ40日での上昇率を、
年間に延長すれば、その9倍、つまり90%~234%もの上昇になる。

これは、同時に、国家が発行した既発国債が、下落していることを示
すのです。つまり、金融機関から保有国債が売られている。

■3.国債発行による、需要創造の流れ

政府が30兆円の国債を発行する。
金融機関がその国債を、預金や基金で買う。
政府に、30兆円の現金が入る。

その現金を使い、政府は橋、建物を企画する。
30兆円が建設業へ代金として支払われ、賃金と資材購入費(資材業者
の売上)になる。
資材業者は、その売上で、賃金を払う。

こうして、原材料の海外輸入以外(約3兆円)の、27兆円が国内の賃金
になる。

その賃金で世帯は食品・衣料・住宅関連費を払い、車・液晶TV・家具
の耐久財を買い、携帯電話の通信費を払って交通費も払い、教育費、
医療費を払う。

経済には、乗数効果もあって、27兆円分以上の需要が創造される。以
上が、政府の需要創造の基本です。

ケインズ策とも言う。このケインズ策があるから、1929年~1933年の
ような「有効需要」の不足による経済恐慌は、避けられるとしてきた。

ケインズ以前は、経済は不況と好況を繰り返していたのです。

▼有効需要とは?

ケインズ(1883-1946)が言った「有効需要」とは何か? 

全体経済(GDP)では、古典派の祖セイ(1767-1832)が言ったように、
[生産=消費]にはならない。

[生産=消費+貯蓄]になる。つまり世帯の貯蓄分が、消費として不
足する。有効需要が不足する時期がある。その貯蓄を企業が借りて、
投資すればいい。しかし、投資は7年~11年サイクルで多い時期と少な
い時期を繰り返す。

生産力(工場設備と従業者)はあるのに、
・消費が不足し、
・世帯が将来に備え貯蓄することが続けば、
・生産力が過剰になって、不況から恐慌になる。

古来、資本主義は、このサイクルを繰り返した。

原因は、有効需要(消費+投資)の不足、言い換えれば貯蓄の過剰の
時期である。

この貯蓄が、金融機関を経て、企業の借り入れになって、投資が行わ
れれば、経済全体はバランスする。投資も需要です。

しかし不況期には、企業は、将来を悲観する。
投資が不足する。
そのため、金融機関にたまる貯蓄が過剰になる。

その過剰貯蓄を、企業に代わって、政府部門が国債を発行して借り、
公共事業を行い(投資需要を創造し)、有効需要を増やせばいい。

この説が「ケインズ革命(1933年〕」と言われるものです。

(注1)しケインズは、今回のような金融危機による信用収縮に対し、
「有効需要論が有効」とは、どこを探しても言っていません。過剰な
貯蓄があるときのみ、有効と言う。

(注2)本稿では、過剰な貯蓄がなく、バブル経済が崩壊した後の信
用縮小からが起こった経済に対しても、ケインズ風の有効需要論が妥
当なのかを、金利と物価の関係から解くものです。

▼国に貯蓄の増加がないときの巨額国債の発行は?

ケインズの有効需要論は、
(1)その国の経済に過剰な貯蓄があって、
(2)それが投資に使われないとき、有効です。

今回のように、貯蓄増がないときはどうなるか?

日本には、1500兆円の世帯の金融資産があるとされます。これを使え
ばいいという無責任な論もある。

例えば、銀行預金分が750兆円(50%)はある。これを国債に使えばい
いとする。これは銀行の資産・負債の状況(つまりバランスシート)
を知らない暴論です。

銀行の預金(世帯からの負債)は全部、
・貸し付け、
・社債購入、
・株購入、
・国債購入で使われ切っています。

どの銀行のバランスシートを見ても、以上のことは明らかです。

世帯の預金増分があって、それが無金利の現金で銀行に残っていると
きに、銀行に資金余剰があると言えます。

しかし預金増がないとき、銀行に国債を買わせれば、どうなるか。

銀行は、
(1)貸し付けを減らす、
(2)保有社債を売る、
(3)保有株を売る、
(4)保有国債を売る、
(5)日銀から借りるといった形でしか、
  新しい巨額国債を買う現金を、生めません。

こういった事情は生保、及び政府系の郵貯・簡保、年金基金も、全く
同じです。

現金保有は、金利を生まない。だから、金融機関は現金を貸し付け、
あるいは社債購入、株の購入、国債の購入をしています。
金融機関の金庫には、今日の支払いに備える、わずかな準備金しか
ない。

【まとめれば】
日本の90年代までのように、世帯の貯蓄増(または企業貯蓄の純増)
があるときしか。金融機関には新しく発行される33兆円の国債(09年
度)を、十分に買う余力がない。

(注)そのため、今、世界で市場の長期金利が上がっているのです。

市場の資金不足を示すのが、上記の、中央銀行の利下げ(債券の買い
オペ)に逆行した、市場の長期金利の上昇です。

これは、
・金融機関が持つ国債が売られ、
・米国では4%くらい価格下落していることを示します。

米国では、2009年初の40日間で0.76ポイント(26%)も上げています。
これが続けば、年間換算では9倍、つまり6.84ポイントの金利高騰に等
しい。

6.84ポイントも長期金利が上がれば、2%の利回りの平均残存期間5年
の国債は、以下のように、24%も価格が下がります。

(注)10年もの国債がどれくらい下げるか計算してください。結果は、
37%もの下落になるでしょう。

【国債価格】
国債価格=(1+額面に対する表面利率×残存期間)×100
       ÷(1+金融市場の期待長期金利×残存期間)

$100額面の国債=(1+2%×5年)×100÷(1+8.84%×5年)=110
÷1.442≒$76・・・24%の価格下落

●現在の傾向で、米国の長期金利の上昇が続けば、国債発行の効果が
無効になるどころか、米国債が新たな不良証券になる。それをもつ金
融機関は、住宅証券の下落に匹敵する自己資本の毀損、つまり破産に
なります。

国家は、紙幣を発行できるから万能というのは情緒論であり、論理的
な経済論では、誤りです。

証券(=利付き借用証)が増え、金額が膨らみきった現代金融では、
政府・中央銀行も万能ではない。一人のプレーヤーに過ぎない。

今、経済論では、どんな形にせよ金融・経済対策として、政府・中央
銀行がペーパーマネーを刷るから大丈夫、09年秋には経済は回復する
という意見が、増えています。果たして、そうか? 

ここを検討し、論じねばならないでしょう。

「これ以上は判断停止、ともかく(anyway)、国家がペーパーマネー
を刷って貸すから、大丈夫」ではダメです。今、経済論を読めば、そ
の結論は「政府による対策の効果を期待する」というのが多い。

経済分析が期待では、無責任な論にしか、ならない。科学の実験で、
いい結果を期待すると述べるようなものです。政府も、GDP予想を希望
というようになっています。

■4.各国政府の経済対策で、金融危機・経済危機は救えるか?

▼無利子国債論

元大蔵官僚の異端、高橋洋一氏が提唱している政府紙幣とともに、出
てきたのが、財務省の無利子国債の発行論です。

(注)彼は、特別会計の埋蔵金も暴きました。しかし今回の政府紙幣
発行論は、後述するように、高橋氏の誤りでしょう。

無利子国債論は、2000年末に森内閣でも出たことがあります。
財務省が、国債の発行に困ると、繰り返し出てきます。

資産があり、相続税を払わねばならない世帯が、無利子国債を買えば、
その分相続税を減免する(割合は未定)

あるシンクタンクが1467兆円の個人金融資産のうち、その約1割の179
兆円が、タンス預金(約30兆円)を含み、使われていない余剰貯蓄と
推計したことから、無利子国債論が出てきました。

現在、わが国の国税は55兆円、地方税は40兆円、合計で95兆円(08年
度政府予算:実際には、これから10兆円くらいの減収でしょう)です。
http://www.soumu.go.jp/czaisei/czaisei_seido/pdf/ichiran02_04_a.pdf

04年と古いのですが、相続税の課税対象資産の総額は、10兆円でした。
現在は、株価の下落と地価の下落で、10兆円/年より少なくなってい
るはずです。

100人のうち4人くらいが、相続税を払わねばならない額の不動産や株
を子孫に残す。家業的な中小企業の、未公開株も多い。

しかし相続税の総額は、1兆4000億円(相続課税資産の14%)に過ぎま
せん。

無利子国債では、ある程度の国債売却効果は、あるでしょう。

概略の推計では、20兆円分くらいの無利子国債(向こう5年分の相続税
課税分)が発行できるかも知れません。しかし、後で相続税が急減し
ます。無利子分が、相続税の先払いになるからです。

▼(重要)無利子国債には、大きな下落リスクがある

無利子の長期国債(10年ものと仮定)は、金利の上昇があると、市場
価格が激しく下落します。

例えば、長期金利が5%に上がったとします。
買って3年を過ぎ、残存期間が7年のものは、どうなるか。

100万円額面の国債の市場価格=(1+0%×7年)×100÷(1+0.5×7
年)=100÷1.35=74万円・・・26万円(24%)下落。

平均課税率10%の相続税を減らすために無利子国債を買っても、3年後
の長期金利が5%に上昇すれば、相続税を払う以上の、損失(24%)が
生じる可能性がある。

ここまで考えると、奇策の無利子国債も「さほどは売れない」と見る
ことができます。政府財政の、砂上楼閣です。

同様に政府紙幣も、
・通貨の価値を下落させ、
・金利を上げる要素になる。

[確認]物価の上昇(言い換えれば通貨の価値下落)が金利上昇にな
る原理は、了解されたでしょう。

政府が経済対策を打てれば、金融・経済に、確かに効果はある

しかし、その財源を作るための、政府紙幣発行や国債発行は、
(1)通貨価値の下落と、
(2)金利の上昇(既発国債価格の下落)を生んでしまいます。

世帯の貯蓄増がないときの、無理で無効なケインズ策になる。

【背景】
政府紙幣や無利子国債論が出る背景は、2009年度の予定で33兆円、20
10年度はおそらく50兆円くらいの、新規国債発行が必要だからです。

09年度の33兆円は政府計画です。実際には、上場企業の利益の75%の
減少で、法人税の急減があるので40兆円か。

今、東証一部上場企業の3月期の利益を予想した予想PERは、39倍に上
がっています。PER=時価総額÷企業純益です。

時価総額は256兆円ですから、金融機関を含む一部上場企業の3月期予
想の合計純益は、256÷39倍=6.5兆円に、75%も減った。(09.02.09)

そして今後、最短でも2年間、GDPがマイナスに転じます。

「にっちもさっちも行かないどん詰まり」の状況に、政府財政と国債
発行があると認識していいでしょう。少なくも3年は、法人税収が減る。
賃金の切り下げやリストラで得所得税収も減ります。それを理由に、
政府紙幣が出てきた。

米国は、多分、日本政府と日銀に対し、米国債の増加購入を要請しま
す。結局、日銀による国債の直接引き受けしかなくなるでしょう。

【米国と欧州も同じ】
米国FRBも欧州ECBも同じです。
・米国FRBが国債を買い、
・欧州ECBが国債を買って、
 通貨を増刷することにしか、帰結しない。

欧州の状況は、わが国ではあまり報じられませんが、金融、経済、住
宅価格は、ほぼ6か月遅れで米国を追っています。

米国の国債発行は、2009年で$2兆以下と言われますが、その額で足り
るわけもない。すでに、$4兆の損が生じ、1ヶ月で$1兆の勢いで増え
ているからです。4.9億人の欧州連合(27カ国)も、米国と同じです。

前記の、米国と欧州の長期金利の上昇は、
・今後の国債増発、
・中央銀行の国債引き受け、
・つまり、通貨価値の下落(=物価上昇)を予想したものです。

各国の中央銀行が、
・国債を買い、政策金利を下げに誘導しているのに、
・金融市場は、それに反応せず、
・国債を売って、金利を上げているのです。

理由は、巨額損で、金融機関に国債を買うマネーがないからです。

【低金利の国債が売れないことが、金利の上昇】

インフレの本質は、
・商品価値の上昇ではなく、
・通貨価値の下落であると述べました。

マネーの側では、その価値を下げられてはたまらないので、国債や社
債の債券を売って、金利を高騰させる。

近年の先進国では例がありませんが、中進国のトルコでは、つい最近
、起こったことです。

▼トルコの事例

トルコは、米国のように継続的な貿易赤字国であり、対外債務がGDPの
50%と多い国です。米国に似ています。海外から、2桁の高金利に誘わ
れた資金が入って、なんとなっている。

過去は、その資金流入があったので、首都イスタンブール(人口1200
万人)の、風光明媚なボスフォラス海峡を挟む、高級住宅の価格は、
英国並みに高く1億円を超えています。

海峡沿いには、ヨーロッパで5本の指にはいる高級ホテルも建つ。欧州
のリゾート地でもある。(注)今は、資本流失で下落途上です。

先進国、中進国で経済原理の何が変わるか。
何ら変わりません。
経済統計の正確さの違いと政府や金融の腐敗度の違いがあるだけです。

人口構成は違う。トルコは若年者の人口が多く、中東諸国と同じく、
社会は高齢化していない。そのため、高いインフレ率ではあってもGD
Pの実質成長率は、中国並みに高い。

トルコは、生産性の低い農業人口(約40%)が、工業人口に吸収され
る過程だからです。農業人口が工業に吸収されるときが、その国の、
2桁に近い高度成長になる。日本では1960年代でした。

トルコでは農業人口が40%です。農業生産のGDPに占める割合は15%に
過ぎない。しかし農業の人的生産性は、他の産業平均の15÷40=37.5
%です。これが工業に吸収されれば、賃金は少なくとも3倍になって、
GDPは高い成長をします。

今の先進国のように生産が空洞化し、工業人口がサービス・流通に流
れる時期は、3%以下の低成長になります。

機械を使う工場の平均賃金の上昇率と、人的なサービス・流通の平均
賃金の水準と上昇率では、サービス・流通が低いからです。

(注)私の目標ミッションは、流通業(卸・小売:1200万人)の人的
な生産性を2倍に上げることとしています。在庫管理に使う情報の集計
・計算の機械が、コンピュータです。流通業の主作業は、在庫管理で
す。発注~入荷処理~陳列処理~販売処理~棚替え処理です。これら
は全部、在庫管理でしょう?

■5.2000年代のトルコのインフレと金利

【トルコ経済:200年代初期のインフレ期の、主要指標】

        00年  01年  02年  03年  04年
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
・GDP成長率  7.4% -7.5%  7.8%  5.8%  8.9% 
・消費者
  物価上昇率  39%  69%   30%  18%   9%
・GDP成長率+
  物価上昇率 46.4% 61.5%  37.8% 23.8% 17.9%
         ↓    ↓    ↓   ↓   ↓
・長期金利   34%  100%   64%  44%   25%
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
政府財政赤字
  GDP比  -10.6% -16.5% -14.7% -11.3% -7.1%
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
GDP比対外債務 64%  93%  77%   57%   51%
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
       (ジェトロ:イスタンブール在住:中島敏博氏)

【高いインフレ率】
この表の前の、90年代の消費者物価上昇率(インフレ率)だった70%
~100%に比べれば、落ち着いたものの、2000年代も、上表のような激
しいインフレ率でした。

1999年に100リラだった商品が、2004年にはいくらになったか?

100リラ×1.39×1.69×1.30×1.18×1.09=333リラです。
5年で3.3倍に上がった。
実際は、リラの価値が三分の1に下落した。

【原因】
原因は、
(1)政府の財政赤字(GDP比で7%~17%と巨額:比較すれば日本はG
  DP比で6%~8%)を国債で補い、
(2)それを買った中央銀行がリラを刷り、国民の貯蓄という背景のな
  いペーパーマネーを供給したからです。

貿易も赤字で、その分の決済資金は、海外から借りています。

企業と世帯は、政府経由・金融機関経由でペーパーマネーを手にし、
物価の上昇を予想して、買い物や投資をした。
都市部の一等地の住宅は、西欧並みに高くなった。

【金利率】
経済に対し中立的な金利率の原理では、
[長期金利→GDPの成長率+物価上昇率]でした。
これは、トルコではどうなっていたか?

各年度の[GDPの成長率+物価上昇率]は、00年46.4%、01年61.5%、
02年37.8%、03年23.8%、04年1.179%でした。

つまり5年間で、
1.464×1.615×1.378×1.238×1.179≒4.76です。

これに対応する長期金利は、00年34%、01年100%、02年64%、03年4
4%、04年25%です。

1999年の100リラを、この長期金利で複利運用すれば、
100リラ×1.34×2.00×1.64×1.44×1.25≒790リラになった。

これは、2000年代初期(5年間)の長期金利が、[GDPの成長率+物価
上昇率]より、相当、高かったことを示します。

【政府は、金融引き締めをした】
政府は国債を刷り、中央銀行はマネーを刷りつつも、
(1)政策金利を大きく上げ、
(2)信用(貸し借りと証券発行)を縮小させて、
(3)消費者物価の沈静化を図ったのです。

中央銀行は、政府にはマネーを供給し、民間のマネーは絞った。

これによって、90年代は70%/年以上だった物価上昇率は、2004年に
は9%に下がった。

しかし04年の長期金利は、まだ24.9%と高い。2桁の物価の上昇率を、
下げるためです。(注)2008年の物価上昇は、10%付近です。

2005年には、通貨を100分の1に切り下げる「デノミ」を行っています。
デノミは、呼称の切り下げです。

有料トイレの料金が、かつては、50万リラ(25円)だった。
今は0.5リラ(25円)です。

【インフレの本質は通貨の価値下落】
消費者物価のインフレが、その国の通貨価値の下落というのは、これ
でよくわかるでしょう。

インフレを起こしていない日本円から見れば、今も昔も、トイレ代は
25円で変わらない。つまりトルコの物価は、円で見れば変わっていま
せん。トルコの通貨であるリラの価値が、上下しただけです。

リラで見るから、物価が変わる。そのため金利は高くても、リラはト
ルコ国民に、信用が薄い。日本円、米ドル、ユーロをトルコのお店は
喜んで受け取る理由がこれです。

以上、
・リラの交換価値(購買力)が年々下がり、
・そのため物価が上がったように見え、
・金利は物価上昇率以上に上がったトルコ経済を見ました。

【どの国も同じ】
政府が、貿易赤字や財政赤字のため、国内の貯蓄の増加分を超えて無
際限にペーパーマネーを刷れば、どの国もトルコのようになります。

「政府紙幣の発行」と「中央銀行の国債引き受け」は、同じことです。

であるのに、日本で政府紙幣を発行論が出る理由は、民間と政府系の
金融機関が、一時的にせよ、国債を買って、保有する余裕がなくなっ
たことを示しています。

■6.どんな形のインフレの可能性があるか

先進国で、物価が何倍にも上がるハイパーインフレが起こったのは、
・戦争で生産力(工場と流通)が破壊され、
・戦費用の国債が、大量発行されたた後でした。

今は、生産力と流通は、破壊されていません。逆に、車や家電のよう
に余剰生産力がある。そのため、生産力に対し、需要が超過する形で
の「デマンド・プル型のインフレ(需要超過型インフレ)」は起こら
ない。

可能性があるのは、
・通貨価値の下落によるインフレと、
・インフレ率に呼応する、市場金利の上昇です。

これを、先駆けて示すのが前記の、米欧の長期金利の上昇です。
マネー動きのほうが、物価より早い。

▼米国にインフレの可能性が高い

米国は、今はまだ、円以外に対しては、ドルの相対価値(為替交換の
価値)を減らしていません。

【ドルペッグ国】
中国と(イランを除く)アラブは、通貨を米ドルにペッグし、準固定
相場にしています。

ペッグとは、自国通貨が上がる気配があると、
・政府・中央銀行が自国通貨を売り、
・ドルを買って、自国通貨を下げる。

自国通貨が下げる気配のときは、
・保有するドルを売って、
・自国通貨を買って上げる。

この調整を行うのがドルペッグです。

米ドルにペッグする理由は、米国への輸出のためです。輸出のため対
ドルの為替相場を固定させる。自国通貨が上がれば、米国内の価格が
上がって、輸出品が売れなくなるからです。

中国、中東、日本のような貿易黒字国の通貨は、上がらねばならない。
しかし、中国と中東は、輸出のため通貨をドルに固定した。日本は政
府のドル買いで、2008年7月まで、円安に誘導していたのです。

【それ以外の新興国】
そして世界には、トルコのように、国民が、自国通貨より米ドルを信
用する国も多い。

90年代後期から進んだ世界経済のグローバル化は、ドル経済圏を拡大
しました。つまり、世界のドル需要は、世界経済の高い成長率(実質
5%台)に合わせ増えていた。

そのため、米国がどんなにドルを刷っても、ドルは吸収され高かった。
2000年代は、円のほうが、むしろ安かったのです。

海外が、強いドル債を買うので、米国の対外債務は、$20兆に拡大し
たのです。(注)米国の対外債権は、$15兆。

【米国の対外債権売りがあった】
リーマンが破産した昨年9月以後は、グローバルに活動していた米国の
金融機関(特に5大投資銀行)、ファンド、企業は、本社の資金繰りの
ため、世界各地にもつ対外債権(社債や株)を売っています。

これがドルの、米国本社への還流になった。例えば、インドで株を売
れば、ルピーが手に入る。そのルビーでドルを買い、本国に送金する。
これでルピー売り(=ルピー安)、ドル買い(ドル高)になる。

米国の金融機関と企業は、他国の通貨を売り、米ドル買いをした。

このため、ドル債券を最大にもち、その売りが大きかった円以外に対
して、ドルは下がっていません。

むしろ、新興国の通貨が全部下がり、高かったユーロすらも、米国か
ら売られて下げています。

通貨を下げたユーロと新興国(下記諸国)には、今、ドル不足が起こ
っているくらいです。

▼強いドルが言われるがその実態は

昨年、米ドルに対し、通貨を下げた国を挙げれば、以下です。括弧内
が下げ率です。

英国(-18%);カナダ(-10%):ユーロ15カ国(-5%):ノルウ
ェー(-9%);ハンガリー(-9%);ポーランド(-10%);ロシ
ア(-9%);スウェーデン(-11%);トルコ(-12%);オースト
ラリア(-12%);インド(-9%);マレーシア(-5%);インド
ネシア(-9%);韓国(-20%);タイ(-11%);アルゼンチン(
-5%);ブラジル(-14%);メキシコ(-15%);ベネズエラ(-
53%);チリ(-16%)・・・〔英エコノミスト誌より計算〕


これらの国で、米国の投資銀行・銀行・ファンド・企業が、株、社債、
証券を売った。

ここに挙げなかった主要国は、対ドル相場を維持しています。中国、
中東、シンガポール、台湾、エジプト、イスラエル等の、事実上のド
ルペッグ国です。

日本円のみが、米ドルに対し20%以上、上げました。日本の金融機関
が、08年9月以降、金利が下がったドル債にリスクを感じ、売ったため
です。これは、正しい行動です。

▼強いドルと逆に・・・

しかし以上の、円以外の通貨の下落データは、米ドルと米国経済の強
さを意味するものではない。逆の、弱さを示すものです。

本社の巨額損失で苦しくなった資金繰りを埋めるため、やむなく、対
外債権を売っているからです。

そのため、上記の国々の通貨は、米ドルに対し下げた。米国の対外純
債務は、対外債権の減少〔=売り〕によって、逆に、一層、増えてい
ます。

●米国の金融機関と企業による、海外での保有債券売りが、海外によ
る米債券の売りを上回る間は、今のドル高が維持されるでしょう。

●しかし、いずれ近々、米国が海外で売る債券より、海外が売るドル
債券が上回ります。米国は、対外債務のほうが$20兆と多いからです。

米国は、消費財のほぼ50%を、輸入している国です。この構造は、数
年では変わらない。そのため、米ドルの世界の通貨に対する下落によ
って、輸入品の物価が上がる時期が来る。

■6.米国の消費者物価が上がり、金利が上がるとき

経済では、時期の判定は難しい。

ドル下落が起こるのは、
・2009年度中(09年4月から10年3月)に、金融・経済対策のためにド
 ル国債が大量発行され、
・それを日本・中国・中東が買えないと世界が認識する時期からでし
 ょう。

▼ドル債購入の大手は3カ国

上記3国は、いずれも対米輸出で貿易黒字を出していました。
08年8月以降は、早くも日本が貿易赤字に転落しています。

中東も原油が$30~$40なら、貿易赤字になる。
中国の貿易黒字も、急減します。
そのため、米ドル債を買う資金源がなくなる。

ドル下落はいつか? (注)これは、直感です。

【2009年度の後半か?】
2009年度の後半に、世界が「ドル国債が、海外には売れない。米国の
FRBしか買わない。」と感じる時期が、来るように感じます。

なにせ、発行額が、07年までの$1兆(90兆円)どころではない。$2
兆(180兆円)、そして・・・$3兆(270兆円)になるからです。

【FRBの急な信用膨張】
米国FDRBの資産は、
・金融機関の不良証券の買い取りと、
・緊急融資で、
・$2兆(180兆円)と08年8月以前の$8000億(72兆円)の、2.5倍に
 膨らんでいます。

すでに、ここ5ヶ月でFRBは108兆円分、増加資金供給をしています。(
09.01.22時点) 

今後、国債買いで$3兆(270兆円)、$4兆(360兆円)になるのも時
間の問題でしょう。
http://en.wikipedia.org/wiki/Federal_Reserve_System

米ドルは、現時点では、日本円に対してのみ、20%以上も下げたもの
の、(上記のように)他国の通貨に対しては、価値を維持するか、む
しろ、10%~20%も上がっています。

このため、米国のGDP($12兆)に対する対外債務($20兆)は2倍近
くと大きくても、トルコのようにはなっていない。

【日本は、$買い支えの能力を喪失した】
わが国政府は、ドル基軸体制を守ると、口では言います。
しかし米国債を買う資金源は、一体どこにあるのか。

財務省は、国債に札割れが生じ、政府紙幣や無金利国債の発行を言う
くらい、追い詰められています。貿易は、昨年秋から赤字に転落した。

政府に、これ以上ドル債を買い支える資金があるはずもない。(注)
日本の対外債権は、610兆円と、世界最大に巨額です。中国でも150兆
円でしょう。

【ユーロはもともと、反ドル基軸だった】
統一通貨ユーロは、ドル基軸の米国支配の体制から、逃れようとする
欧州の思惑から来ています。ドルの下落で損をしてはたまらないとい
うところからです。

ドル基軸が崩れるのは、政治的なリップサービスは別にして(本音で)
欧州は歓迎でしょう。フランスのサルコジ大統領が、ドル基軸は終
わったと言うのは、石油を生む中東圏をユーロ基軸に変えるためです。
金融面では米国と一体の、英国とスイス(ユーロへ非加盟)は別です
が・・・

【認識から】
ここからは、壮大で、しかし実際は滑稽な、金融のドラマです。

(1)2009年の秋から年末にかけ、世界が、大量発行されるドル債は、
事実上、米国FRBしか買っていないと認識する。

(2)そのとき、$20兆(1800兆円)の、世界にバラまかれたドル債(
国債、社債、住宅証券、株)に、売りが起こる。

【米国の消費者物価】
米ドルは、今度は、世界の通貨に対し、下げる。
消費財の50%を輸入に頼る米国では、ドルが下落すれば消費者物価が
高騰します。

そうすると、米政府とFRBの意図に反し、金融市場の長期金利が、消費
者物価の上昇率を追って、上げる。

物価の上昇は、今度は、国が止められない。
経済対策のため、金利を上げることができないからです。

【帰結は・・・】物価が上がって金利も上がり、経済は恐慌めいた不
況、つまり米国経済は、強度のスタグフレーションになる。

これは、米国債、$建て社債、$建て住宅証券、$建て株の、下落を
意味します。

米国の消費者物価が、50%の輸入物価の20%高騰(米ドル20%下落)
で、消費者物価の加重平均が10%水準に上がるようになれば、FRBが金
利を下げても、市場の長期金利は、8%にはなるでしょう。

残存期間5年の米国債は、以下のように価格を下げます。

$100額面=(1+2%×5年)×100÷(1+8%×5年)=110÷1.4≒
$79・・・21%下落

この債券価格の下落率は、社債、住宅証券、株でも同じです。
つまり$20兆の対外債務(証券)が、21%下げる。世界が被る損失は
$4兆でしょう。

損をしてはたまらないので、下落(=市場金利の上昇)を予測し、米
国債、社債、住宅証券、株が、海外から売り浴びせられます。

債券の価格は、金利と物価の予想で決まるものです。

(注)最後まで売らないのは、日本政府だけでしょう。金融機関は売
るはずです。金利が高いと言って買った、米国の住宅証券で1.5兆円を
失った農林中金のようになってしまうからです。そうなると、経営者
責任を問われます。

【想定】
そのとき、米国は、大統領令で、過去のドルを旧ドルとし、新ドルの
発行を行う可能性が生じます。1971年にニクソンが、突如、金・ドル
交換停止を発動したのと同じです。

新ドル発行(グリーン・バックに換えるブルー・ノート)は米国の通
貨当局(FRB)では、すでに議論されています。

私の、オリジナルな論ではない。米国金融の重鎮ボルカーを、オバマ
大統領が経済回復諮問会議の議長に任命したのは、この準備に思えて
なりません。

【後記】
日本の政府紙幣や無利子国債は、政府財政の救いのように思われてい
ますが、実際は逆です。1%台の金利の国債を、市場が買わないという
状況を示しているからです。財務省も、追い詰められています。

政府がペーパーマネーを刷って、金融機関と企業に貸せば、金融や経
済が回復し、解決するわけではない。

それで解決するなら経済も、簡単なものです。生産する代わりに、国
がマネーを刷ればいい。これがどんなに滑稽なことか、孤島の経済を
想定すれば、わかるでしょう。

しかし米ドルは、対外債務$20兆(1800兆円)でも、信用されてきた。
そのため国債・社債・住宅証券・株券(いずれも紙)を刷って、海
外に渡し、そのマネーで商品を買うことができたのです。

海外が米国を信用したからです。しかし、いよいよ、米ドルの信用も、
どん詰まりに来た感じです。

欧州はゴールドを買い始めたようです。

【御礼】
少し前のことですが『まぐまぐ大賞』への投票、ありがとうございま
した。お陰様で1位の評価。そのためか、有料版も無料版も、登録者が
増えています。無料版を含むマガジン15万誌(?)で1位ですから、支
援が厚い。当方には、良質なものを書く責任があります。

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

【ビジネス知識源プレミアム:感想は自由な内容で。以下は、項目の
目処です。】

1.内容は、興味がもてますか?
2.理解は進みましたか?
3.疑問点はありますか?
4.その他、感想、希望テーマ等
5.差し支えない範囲であなたの横顔情報があると、今後のテーマと
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        <420号:時事:経済と金融>

      2009年2月25日号: 経済・金融の時事
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著者へのメール    yoshida@cool-knowledge.com
著者:Systems Research Ltd. Consultant吉田繁治
■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□

こんにちは、吉田繁治です。日本のGDP(商品生産と流通の金額)は、
08年10月~12月期には年率換算で12.7%マイナスだったと内閣府が集
計しました。同時期の米国は-3.8%、西欧が-5.7%です。わが国の、
生産・流通活動の落ち込みが、目立ちます。

政府は08年9月15日に、投資銀行のリーマン・ブラザースが証券の下落
で倒産したとき、「日本経済への影響は、蚊ほどもない(財務大臣)」
と言っていました。経済の連関への、論理のイマジネーションを欠
いています。

昨年の10月末、知り会いの、電子部品・電子製品製造の大手企業の常
務をしている人と数年ぶりに会食したとき、「今月の受注が突然消え、
対米輸出用の生産は、すでに、停止状態です。」と聞きました。

すごい速度での、米国の消費減少の波及でした。外需の急減(-30%
~40%)が、わが国GDPのマイナス12%として結果しています。

起こったことの理由を解釈し論述するのは、容易です。大切なことは、
「今後どう向かうかを、見通すことである」と考えます。明日への
備えと対策が、必要だからです。

2007年8月11日、米国の、サブプライムローンのデフォルト(支払い不
能)の増加から、フランスのBPPパリバ(銀行)等が巨額損を出し、欧
州中銀(ECB)とFRBが即日数十兆円の緊急融資を発動しました。

直後に「1929年からの、世界大不況(GDPの30%マイナス:失業率25%)
までは行かない。資産の根拠がなくても、各国政府・中央銀行がマ
ネーを刷って貸し、金融機関の自己資本不足を埋めるから。」と書い
て送ったことを、記憶しています。

今でも見解は変わりませんが「2009年の世界のGDPは、2桁に向かいマ
イナスする可能性が高くなった。」と言わざるを得ない。これが、ど
んな意味を持つかです。GDPの大きなマイナスという経済は、多くの人
に経験がない。

そして、今回のような不良証券問題からの不況は、通常の景気循環と
異なり、金融機関、企業、世帯の貸借対照表(資産・負債の状況)に
おいて、(1)資産の評価を急に減らし、(2)それに逆比例して負債
の重みを増やすため、回復に時間を要します。

1990年以後の日本は、200兆円の不良債券の償却と、1000兆円の不動産
下落からの貸借対照表の回復に、約15年かかりました。その間に、経
済対策のための政府部門の総負債(国債・地方債・短期借り入れ)は、
1000兆円を超える額に達しています。

民間の有効需要(世帯の買い物と企業の投資)の減少を、政府部門が、
国民からの借金で事業を行い、補ったからです。

ニューディールとは言いませんでしたが、政府事業の金額は、米国の
ニューディール(ルーズベルト大統領:1933年~)を超えるものだっ
た。その、つけが、政府部門の1000兆円の負債です。

米国経済の回復は、政府策発動の2年後の1935年ころからであり、その
後は、悲惨だった第二次世界大戦(1941年~45年)でした。戦争を経
済的に言えば「破壊の公共事業」です。資金源を国債にした、数百万
人の失業者の軍隊(政府部門)による雇用と、軍需・兵器産業(民間
部門)への需要の供与でした。

本稿のテーマは経済と金融の時事としGDPの減少がどう向かうかを書き
ます。そして、極点に近づきつつある日米の国債問題です。

米国は、日本より国債は少ないのですが、昨年8月からの住宅金融専門
会社の国有化で、国債額が2倍(約1200兆円)になったのと同じ構造で
す。住宅証券の下落が政府の部門の損になる。

──────────────────────────────
      <420号:時事:経済と金融>
         2009年2月25日分

【目次】

1.GDPの構造
2.失業という、経済の最大問題
3.米国の問題
4.米国への海外から資金還流の減少
5.今回の金融対策には、困難さがある
6.日本経済への政府対策の問題
7.ゴールド価格の上昇の意味

──────────────────────────────

■1.GDPの構造

GDP(Gross National Product:国内総生産)は、世帯、企業、政府部
門の経済活動(生産・流通・投資)の総体を、金額で示します。GDPの
内容を理解しておかないと、マイナスやプラスと言っても意味は分か
らない。本稿でもっとも基本的なところを示します

▼米国のGDPとその問題

まず、金融危機と消費及び投資不況の震源地である米国のGDP(08年9
月期)からです。日本には、その津波(日本の対世界輸出の減少)が
襲ったと見れば、理解しやすいでしょう。

以下がGDPの構成要素と、金額です。米国は日本の約2倍の経済です。
人口は3億人で日本の2.4倍です。国土は25倍の広さ。($1=95円換算)

米国実質GDP=世帯消費 (785兆円:70%)
       +住宅投資( 33兆円: 3%)
       +設備投資(135兆円:12%)
       +政府支出(198兆円:18%)
       +輸出  (148兆円:13%)
       -輸入  (198兆円:18%)≒1125兆円

企業にとっては粗利益額(付加価値額)がGDPになるものです。世帯に
とっては、所得がGDPになるものです。GDPの減少は、全企業の粗利益
合計の減少と、全世帯の合計所得の減少を意味します。

米国経済の特徴は、世帯消費の構成率の高さ(70%)、そして恒常的
な貿易のマイナス(50兆円:-5%)です。

わが国より構成比で約10ポイント高い世帯消費のうち、毎年、80兆円
部分(約10%)が、ローンや消費者信用による借金だった。

住宅ローン(1100兆円の残)と合算すれば、米国の1億世帯は、1300兆
円($14兆:08年6月末)の負債を抱えています。これは、世帯の可処
分所得(税や社会福祉費を引いた所得)の1.3年分です。

世帯が返すのが困難な過剰負債は、30%部分($4兆:380兆円)と試
算されています。金融機関は、商品の買い物と住宅を買うローン(過
去は1年に100兆円分くらいあった)を出せなくなった。

そのため住宅、ローンでの車・家具・家電の購入が減り、ショッピン
グセンター等で使っていたクレジットカードの与信(買い物能力)が
少なくなった。(注)世帯のクレジットカードでの負債は$1兆(95兆
円)

ウォルマート(年商35兆円:7262店舗)に次ぐ2位の年商の、2万平米
の巨大店で住関連商品を売る優良企業ホームデポ(年商7兆円:2234店
舗)は、08年11月~1月期は、売上の不振から、初めて52億円の赤字に
転落しています。

2008年9月の金融破産以後、2000年代の、住宅ローンと借金による過剰
消費が、一挙に、収縮に入った。これは世界(主は中国・日本)から
の輸入を減らします。欧州の金融と輸入も、同じ状況です。

日本の輸出先は、米国が最大で17兆円(08年)です。対中国(14兆円)
及び対アジア(29兆円)も、多くが三角貿易です。

最終輸出先は、米国と欧州です。輸出総額(約90兆円:08年9月まで)
のうち60兆円分(構成比68%)がほぼ対米輸出分と見ていい。対欧輸
出は14兆円(構成比15%)です。

わが国の輸出のうち対米・対欧が急減した。これが、2008年10月~12
月期の、日本のGDPの、12.7%マイナスの直接的な要因です。

▼日本のGDP

以下は、日本のGDPの、直近のもの(08年10月~12月)の年率換算です。
http://www.esri.cao.go.jp/jp/sna/qe084/jikei1.pdf

日本実質GDP=世帯消費 (308兆円:57%)
       +住宅投資( 16兆円: 3%)
       +設備投資( 81兆円:15%)
       +政府支出( 98兆円:18%)
       +輸出  ( 79兆円:15%)
       -輸入  ( 63兆円:12%)≒540兆円

特徴は、(1)世帯消費の構成比の少なさ(構成比57%)、(2)企業
の設備投資の多さ(同17%)、(3)政府支出の多さ(同15%)、(4)
及び輸出の多さ(同15%)です。

2000年代の日本経済は、外需依存を高めています。世界の好景気(GD
Pの5%上昇)から来る輸出企業の好調(毎年、史上最高の利益を更新)
が、景気を引っ張っていたのです。

年間輸出は、08年9月まで91兆円(構成比17%)と、極めて多かった。
これが08年10月~12月期に、突如71兆円へと、20兆円(91兆円に対し
22%:71兆円に対し28%)も減った。大手製造業の、軒並の巨額赤字
への転落は、輸出の急減と円高のためです。

原因は、米国世帯の、前述した負債過剰(過剰部分360兆円=不良債券
化)からの消費減少です。

日本の輸出は、1996年は46兆円(GDPでの構成比は10%)に過ぎなかっ
た。円安の2000年代に、91兆円(GDP構成比17%)へと倍増しています。

主な大手製造業(396社)の海外売上比率(輸出と現地生産)は、200
0年の30%から、2008年は40%に上がっています。この海外売上の30%
の急減が、日本のGDPを直撃した。まさに、好事(こうず)魔多しです。

【乗数効果】
輸出の20~30兆円(年率換算)の減少は、直接には、GDPの4%~6%の
縮小要因です。しかし、輸出での売上には「約2倍の乗数効果(波及効
果)」があります。

商品輸出が増えると、輸出企業と部品産業の、雇用・賃金・利益が増
える。それらが、世帯消費に向かう。設備投資も増える。これによっ
て、輸出増加分の2倍の、GDP増加になる。

逆に、(1)今回のように輸出が30%(20兆円)も減り、(2)派遣を
含む雇用がカットされ、(3)正社員の賃金や賞与がカットされて、企
業の設備投資も減ると、その2倍(40兆円)ものGDPの減少(マイナス8
%)として波及します。国内の消費と投資が減ってしまう。

直近(09年1月)の輸出は、08年10月~12月期の-30%より、もっと大
きく落ちています。(日経新聞2月25日)

【09年1月の、日本の輸出入:財務省】

      輸出(前年同月比)   輸入(前年同月比)
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
米国     5717億円(-53%)   4389億円(-35%)
EU      5220億円(-17%)   4953億円(-23%)
アジア   1兆6185億円(-47%) 2兆489億円(-25%)
うち中国    5121億円(-45%) 1兆748億円(-16%)
中東     1794億円(-26%)    5795億円(-65%)
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
対世界計 3兆4826億円(-46%) 4兆4352億円(-32%)

米国への輸出の53%減を筆頭に、世界への輸出は46%も減った。日本
は、特筆すべきことに、昨秋からの5ヶ月のうち4ヶ月が貿易赤字にな
っています。貿易黒字国の日本が、外需の急減で、赤字国に転落して
います。

2009年の輸出が、現在の傾向を続け、年率換算で30兆円(GDP比で6%)
減ると、GDPは12%も減ってしまいます。劇症の不況です。

■2.失業という、経済の最大問題

2000年代の構造改革は、実際の経済では、(1)雇用の面での非正規労
働の増加と、(2)輸出の増加でした。

男性では正社員に対し、12%(2000年)から19%(2008年)に増えて
います。とりわけ20歳代の非正規雇用は、正社員2名に対し1名(45%)
です。女性の非正規雇用は正社員に対し46%(2000年)から54%に
増えています。

失業とインフレは、経済における最大の問題です。わが国の戦後は、
ほぼ完全雇用でした。2000年代は、上記のように、正社員と賃金と雇
用契約が区分される非正規労働(パート・派遣・アルバイト)が増え
た。
http://www2.ttcn.ne.jp/honkawa/3250.html

2008年では、非正規雇用の人の、正規雇用の人に対する割合は男性で
19%、女性では54%です。働く人4人のうち3名が正社員、1名が非正規
雇用と言えば、そのイメージがわかるでしょうか。

減少する80兆円のGDPは、人の労働に換算すると、[就業者6331万人(
08年12月:総務省)×8%≒500万人分]です。(注)正規雇用換算。

もちろん全員が、すぐ失業するわけでありません。しかし現在4.4%(
270万人)の失業者が、今年、相当増えます。上記の輸出の急減を主導
原因に、500万人分の労働が、失業予備軍と言っていい。
http://www.stat.go.jp/data/roudou/sokuhou/tsuki/pdf/05400.pdf

仮に、30兆円の輸出減少が続き、年60兆円レベルに縮小したままであ
れば、いずれ、わが国の失業は500万人も増え、現在の270万人+500万
人=770万人に向かいます。失業率は、12%に上がります。

(注)雇用保険(月間給与の約50%~80%を支給:上限は45歳~60歳
未満で1日当たり7730円)が支給されるのは、20年の勤続の人で最長2
40日間(8ヶ月)です。平均は180日でしょう。

経済の恐慌を20%以上の失業と定義すれば、その半分の水準です。消
費と買い物も、その分、減る。

日本経済が、今回の金融危機で、ひどいことになった理由は、経済の
成長を、輸出の増加に依存する経済だったからです。

(注)GDPの30%が輸出の中国も、日本以上に輸出依存です。中国では
日本人1人の失業は、その約10倍の10人分に相当します。中国では5000
万人が失業する可能性が高い。

輸出の減少は、08年10月~12月期で終わるのかと言えば、そうではな
い。米国世帯の、約80兆円の消費の回復に、依存するからです。これ
に、何年かかるか。ここが問題になる。

国内の対策では、政府の新規国債の増発による、20兆円規模の公共事
業での雇用吸収という方法があります。しかし政府負債が1000兆円で
あり、今年度は財政赤字を補うため40兆円の新規国債を発行します。
追加の20兆円の国債発行は、ほとんど不可能です。何事も財源がない
とできません。

市場が引き受けることが無理な額の、国債の発行を強行すれば、国債
価格が下落し、金利が高騰して、逆に、不況が深まります。

減った輸出の20兆円分の内需を増やすと言っても、その具体形は車、
家電、AV機器、デジカメ、PCなどを今以上に買い、ファミレスやコン
ビニに余分に行く、スーパーで食品を多く買い、服を多く買う、旅行
する、温泉に行く、家や家具を買うことです。20兆円は1世帯当たりで
は、1年40万円(月3万3千円の消費増)です。

内需への転換が、「コトバ」で言われます。上記を代表とする商品購
買の総量を増やすのが難しいことは、誰にも分かることです。失業が
増え、賃金や賞与が下がって、減少する世帯所得では、それができな
い。

唯一の方法は、資産が健全な世帯が、ローンで消費を増やすことです
が、「ローンで商品を買いましょう、温泉旅行に行こう」と政府が声
をかけ、世帯が行うかどうか、望みは薄い。逆に、消費を減らす防衛
的な支出です。

08年12月の、1世帯当たりの主な消費は以下でした。
(前年同月比)

食品     84千円(- 3%)
住居関連費  22千円(-10%)
衣料関連   14千円(- 8%)
交通通信費  39千円(- 1%)
教育費    10千円(+ 3%)
教養娯楽費  37千円(- 3%)
・・・
~~~~~~~~~~~~~~~
合計支出   337千円(- 5%)

生産の設備や店舗はある。その売上げが、総体で5%減っています。日
本の世帯消費は308兆円ですが、これが今約5%(15兆円)減っていま
す。うち店舗の売上げは120兆円です。

世帯の平均現金給与は、まだ昨秋からの30兆円の輸出減の、給与への
影響が現れていない08年11月で、289千円(前年比-0.7%)でした。
この減り方が2009年は、大きくなります。企業の売上と利益が増えな
いと、平均給与は増えません。

■3.米国の問題

政府の経済対策に必要なものは、財源です。政府の収入は、税収です。
税収を支出が上回るとき財政赤字と言いますが、赤字は資金不足で
す。借金(国債)でまかなうしかない。

主要国の財政赤字の、OECDによる穏やかな予測は以下です。(2009年
度)(注)他に、どの国でも地方自治体の財政赤字もあります。

     財政赤字  2009年
      GDP比  GDP予想  
~~~~~~~~~~~~~~~~
日本   -4%  [-5%]
米国   -8%  [-5%]
ドイツ  -1%  [-3%]
英国   -5%  [-5%]
フランス -4%  [-3%]
中国   -3%  [+5%]
~~~~~~~~~~~~~~~~~~

実際の各国政府赤字は、もっと増えます。相互に連関している世界経
済が、月を負い、悪化しているからです。

GDP予想は、各種予想から、直近のものを合成し、想定したものです。
例えば米国のGDPは、2008年10月~12月期には、前年比の年率で3.8%
減っています。(米商務省) 2009年は、これが加速します。

▼米国の問題

米国政府は、$1.2兆(114兆円:GDP比10%)の国債の新発を発表して
います。これには、2月17日に決定した$7870億(75兆円)の経済対策
費、及び、いくらになるか未定の、金融対策費が入っていません。

オバマ政権は、経済対策への熱い期待を負い誕生しました。確かに演
説は、歌うように韻を踏み、国民を酔わせるように一流です。

しかし、上記の経済対策の金額と中身が発表された直後、金融市場は、
失望売りを浴びせています。金額が少なく、具体性が乏しく、しか
も2009年度用だけではなく、向こう3年間のものだったからです。

米国は、2008年の海外資金の流入減から、100兆円規模の国債であって
も、どこの国に売るか、まだ、はっきりしていない。

対策はどうでも言えます。具体性が必要な財源については、黙してい
ます。米国は、経済・金融対策のための国債を、自国で消化する余剰
貯蓄を持たないからです。海外からの資金流入(米国債買い)に依存
します。

【一時的なドル高の原因】
ところが今、米ドルは他国通貨に対し、ドル高に向かっています。原
因は、米国の金融機関・企業がもつ対外債権(1570兆円相当)のうち
からの売りです。

それで得た現地通貨をドルに交換し(ドル買い)、本社で必要な資金
繰り用の資金を、米国に送金する。米国債を買える資金ではない。(
注)米国は、$21兆(2000兆円)規模の対外債務を抱えています。

【2月の円安】
なお、2月の円安($1=89円から$1=97円:2月25日)は、日本経済
の輸出の急減によるGDPの12.7%減少を、米欧の投資家が悲観した円売
りからのものです。

2月初旬の英フィナンシャル・タイムズ(FT)には、数回「セフティ・
ヘブン(安全通貨)としての円の終わり」という論評が出ていました。
FT紙は、英国の資金運用を代弁しています。

以上が、(一時的にしか見えない)ドル高の理由です。しかし売りす
ぎれば、米国がもつ対外債権(欧州・東欧・日本・中国・アジア・南
ア・中東・インド)の一層の下落が起こって、金融機関と企業が、売
った以上に含み損を抱えます。売りには、限界がある。

【難題】
米国にとって、2009年の最大の問題は、経済・金融対策に必要な資金
(推計で$4兆以上=380兆円以上)の国債を、金利を上げないで、言
い換えれば米国債の価格を下げないで、どこにどう売るかです。

ヒラリー国務長官の、日本と中国歴訪も、これが理由です。
普通は、最初は欧州へ行きます。それがアジアだった。

オバマ大統領が、最初に会う国家元首として麻生首相を選んだ理由(
わずか1時間の会見)は、麻生首相に「米ドル基軸体制を守る」と言わ
せるためです。

これは日銀が円を刷り、ドル国債を日本政府が買うという意思表示で
もある。後で国益の損になりますが日本の当局、国会、政府は、完全
に対米追従です。国際といったとき米国しかないように振る舞います。
(注)本来は、アジアの共通通貨を作るべき時期です。

中東は、原油価格低下で米国債を買う力をなくしています。中国も、
国内の経済対策に忙しく、はかばかしい返事はしていません。

【結論】
米政府の経済対策は、その財源をどう確保するかに問題を抱えている。
今はまだ、実行の裏付けとなる財源がない。それを示すのが、米国
の代表的な株価の7114ドル(ダウ工業株30種)への下落です。これは
17年前の株価です。

加えて、以降に示す金融対策には困難さと、必要資金の大きさがあり
ます。

■4.米国への海外から資金還流の減少

2007年まで、米国には経常収支(貿易収支+サービス収支)の赤字
100兆円を超える、海外からの資金流入がありました。

今、FRBは金融・経済対策のため、政策金利を5%(06年、07年)から、
オーバーナイトで0%、短期で0.25%に下げています。これは、国債・
社債の利回りの低下(価格は上昇)を示します。

【3%の利回り格差が必要】
元来、ドル債(証券)は、円に対しては3%のスプレッド(利回りの格
差)がないと、買われていません。米国は、恒常的な経常収支赤字国
という弱点をもつため、長期で見れば、ドル安が予想されるからです。

2006年や2007年のように、3%以上の余分な利回りがあれば、10年間で
1.03の10乗=1.34倍の、元利合計になる。10年後に、仮に30%のドル
安(世界の通貨に対する実効レート)になっていても、それをカバー
できる。

これが、米国の社債や国債に、市場が求めた3%のスプレッドの意味で
した。これが米国が、世界の資金を引きつけていた理由です。主に買
われたのは、国債と住宅証券を含み、米国企業の社債です。

今は、あらゆる債券の利回りのベースになる政策金利が0.25%で、日
欧との利回りの格差がない。そのため、理の当然で、海外からのドル
債購入は、08年から急減しています。

2009年の1月・2月は、わずか500億ドル(4.7兆円)規模の資金流入に
過ぎない。(FRB統計)

米政府(特にサマーズ国家経済会議委員長)は、0.27%の利回りの短
期$国債、2.65%の長期$国債(低金利の米国債)は、ドル安の為替
リスクに晒され、経済合理的には売れにくいことを知っています。

そのため「政治的に」中国と日本にドル国債の購入を要求した。
(注)こうした背景でのドル高は、米国の金融機関、企業がもつ対外債権
の、資金繰りのための売りであることはすでに示しました。

■4.今回の金融対策には、困難さがある

米政府とFRBは、サブプライムローン問題が起こった当初(2007年夏か
ら秋)、数十兆円の対策費で済むとしていました。これも、21世紀の
証券化商品とデリバティブへのイマジネーションを欠いていました。

金融危機は、起こった当初に十分な対策を打てば、被害が軽くなりま
す。しかし当初の損失見積もりが少なかったため、次々に波及し、拡
大してしまった。政府の責任がこれです。経済見通しは、それくらい
重要です。

【1京9300兆円:07年】
世界の金融資産の元本は、1京9300兆円(2007年末)とされています。
われわれの想像を超える額ですが、世界の1年間の、商品生産と流通
(約5000兆円:日本の10倍)の、4年分と見れば、イメージがわきます。

世帯に換算して言えば、1000万円の年収(GDPに相当)の世帯が、
4000万円の金融資産(預金、年金、株、社債、生命保険、国債、
住宅証券等)をもっていた(2007年)と想定すれば、その規模が
分かるでしょ
う。

【金融資産は、別の人の金融負債】
この金融資産の額が多すぎます。金融資産は、別の誰かの負債だから
です。借りた人が利払いし、返済できないと、あらゆる金融資産の価
値はない。

年収の4年分の金融資産をもつということは、別の人が、年収の4年分
の、利払いも返済も難しい負債を抱えていることに等しい。

借り手が貸し手になり、貸し手がまた借りて手になって、入り組んで
いるだけです。この貸しと借りを、まとめて仲介するのが、金融機関
です。財布の現金以外の金融資産と金融負債は、全部、どこかの金融
機関にある。

金融資産に紛れ込んだ、証券化商品の額面総額は$600兆(5京7000兆
円)とされます。

上記の、世界の金融資産1京9300兆円より多いのは、各種の証券を組み
合わせ、別の証券が、金融工学の方法で派生的に作られ、二重・三重
・四重になっているからです。2000年代は、これら派生的な証券化商
品が、急激に膨らんだ時代でした。

【証券化商品の下落】
この$600兆の額面の、証券化商品の価値が、わずか10%下落しても、
$60兆(5700兆円)の価値が消えます。これは、世界の、金融資産元
本の30%の価値下落に相当します。

世界が1年に産出する商品総額にも匹敵します。世界の金融機関は、ヒ
ューズが切れるようにふっとんでしまいます。

金融資産のうち5000兆円もあった株は、すでに昨年で、約50%~60%
下落し、2800兆円の時価が消えています。米国分で、930兆円の下落で
す。日本の分で、260兆円の下落です。

【住宅価格】
加えて住宅関連証券(MBS)の価値を決める住宅価格は、まだ下落の最
中です。米国では、ケースシラーの平均価格指数で、ピーク(06年4-
6月)に比べ、26.7%下げています。(直近の08年12月) 

もっとも正確な住宅価格指数を開発したシラー教授(エール大学)は、
更に10%や15%は下がるという見方をしています。

住宅価格の底入れは、2年後の2011年でしょうか。社債と株も、下落途
上です。

【欧州も米国と同じ】
欧州では、東欧に投資した300兆円が、不良債券化〔推計150兆円の損
を〕しています。欧州の住宅価格も、米国の6ヶ月遅れで、下落の途上
です。

日本では欧州のことは余り報じられませんが、5億人でGDP1500兆円の
欧州も、米国と同じ状況です。特に、金融立国だった英国とスイスは
ひどい状態です。

以上述べてきたことのため、金融機関の不良債券の金額が、一向に確
定しません。1ヶ月に、約100兆円の規模で、拡大しています。

米国の住宅金融専門会社(ファニーメイ・フレディマック・ジニーメ
イ)には、08年8月に36兆円の政府資金投入を行ったにもかかわらず、
損が拡大し、今回また36兆円を追加投入です。

世界最大の保険会社AIGは、この3ヶ月で再び、5.4兆円の赤字を計上し
ています。世界最大の銀行シティバンクには、米政府が40%の資本を
入れると言う。国有化すれば、過去の株の価値はゼロになります。

金融機関への対策には、以下のプロセスが必要です。
(1)損失額の確定
(2)必要な政府資金の確定
(3)政府資金投入

第一段階の損失額の確定が、できていません。FRBが緊急融資をしても、
すぐ、足りなくなる。政府が保証するとは言いますが、保証額も確
定しない。住宅、株、証券化商品、そして、価値が算定できないデリ
バティブも下落の途中だからです。

誰も損の総額が行き着くところが分からない。証券とデリバティブが
絡んだ21世紀金融は、誰にも、損失の内容が見えない、底なし沼のよ
うな闇経済になっています。

投資銀行のゴールドマンサックスは、09年1月に、手当が必要な損失を
$4兆(380兆円)と計算しました。しかしこれが、1ヶ月に100兆円規
模で増えています。

【結論】
米欧の金融機関の損失は、月ごとに、100兆円くらい拡大している。融
資と証券を買う金融機能の回復には、2年はかかるかも知れない。その
間、世界の各所で、信用縮小が起こり、経済活動が収縮する。

まだ失業率で25%の大恐慌には至っていませんが、世界の株価下落、
住宅価格の下げが止まらないと、2009年、2010年で限りなく大恐慌に
近づきます。

各国の政府対策によって、2009年秋に株価も下げ止まり、経済は回復
に向かうというのは投資家の「願望の集計」であり、現実性のある予
測とは言えません。

株価は、企業が、半年に公開する次期利益の予想と金利予想をもとに
動きます。理論株価={企業の期待利益×(1-リスク率)÷期待金利}
の各年度合計。株価は、実体経済の6か月先を本音で想定する先行指
標と見ていいでしょう。

■5.日本経済への政府対策の問題

日本経済への政府対策の資金源も、米国と同様に、国債の増発しかな
い。2009年度の当初予定33兆円の新規国債発行予定額は、40兆円規模
に膨らみました。この額は政府の財政赤字を埋めるためだけのもので
す。うち、国債利払い分が20兆円です。

これとは別の、20兆円から30兆円の輸出の急減を補う経済対策(補正
予算)には、少なくとも20兆円規模の、真水の補正予算が必要でしょ
う。

真水は経済マスコミが使う妙なコトバですが、民間債務の政府による
保証ではなく、お金の投入額が20兆円になる経済対策の意味です。財
源は、追加の20兆円の国債発行しかない。(これは未定)

財政赤字を埋めるのに40兆円、経済対策に20兆円分、合計で60兆円の
新規国債発行です。金融機関には、これを買う余剰資金がない。買わ
れない国債を発行すれば、売れる価格まで下がって、金利が高騰しま
す。

【問い】100万円額面、額面に対する金利が1.5%、満期5年の国債が、
90万円でしか売れないと、市場の長期金利はどうなるか? 金利は単
利とする。

国債価格90万円=100万円×{1+額面に対する金利1.5%×5年}÷(
1+市場金利×5年}です。この方程式を、解きます。

90=100×1.075÷(1+市場金利×5)
90=107.5÷(1+市場金利×5)
1+市場金利×5=107.5÷90

市場金利×5=1.19-1
市場金利=0.19÷5=0.038=3.8%

市場の金利は、1.5%から3.8%に約2%上昇します。これだけで終わる
のならいいのですが、金融機関・特別行政法人・日銀がもつ政府債(
国債+地方債+短期証券)が1000兆円あります。

この平均残存期間は、上記と同じ5年です。これらの時価は、金利が
3.8%に上がると、10%は下げます。

つまり1000兆円の政府債の時価は900兆円に下がって、金融機関・特別
行政法人・日銀が100兆円の含み損を被ります。

政府が、経済対策のために国債を60兆円発行しても、それが54兆円で
しか売れないと、既発の公債の損が100兆円も出てしまいます。

差し引きでマイナス40兆円。これでは、金融対策にも、経済対策にも
ならない。損が出た上に、金利が上がって不況を深刻化させます。政
府財政も、国債の増発という手段を失います。

【破断の臨界点】
以上が、政府(財務省)がもっとも恐れている「破断の臨界点」です。
国債を発行すればするほど、金利が上がって、公債価格が下落する事
態です。

この臨界点がどこにあるか? 金融機関がもつ余剰資金の額です。そ
の余剰資金は、世帯と企業の預金増からしか生まれません。

ところが、世帯は、賃金の停滞と減少、及び高齢化で預金を増やせな
くなった。企業は、輸出(売上収益)の急減からの巨額損で、今は、
預金を取り崩しています。

2009年の、わが国の金融機関には、40兆円~60兆円もの新発国債を買
える資金の余剰がない。逆に、手持ちの公債を売り、資金を調達しな
ければならないような資金状況にあるのです。

そうすると、今年度に新しく発行される40兆円~60兆円の国債の引き
受け手は、無からマネーを刷れる日銀しかない。そうなってしまった。

政府紙幣の発行案と、相続税を減免する無利子国債のアイデアが出て
いる背景は、「日銀しか、新発国債の引き受け手がないかも知れない」
という懸念からです。

【政府紙幣の愚かさ】
政府紙幣の発行では、以下のようなアイデアも出されています。財務
省が、経済対策用に、25兆円の額面の紙幣〔財務大臣の印〕を作成し、
日銀に引き受けてもらう。日銀は対価として、25兆円を財務省の日
銀口座に振り込む。手続きは、実に、簡単です。

日銀の白川総裁は、この提案に対し、以下のように述べています。
「政府紙幣は、金利がつかないので、無利子の永久国債と同じである。
日銀は、25兆円の巨額損を被ることになる。」

どんな意味か? 無利子の永久国債の市場価値は、以下のように計算
できます。額面25兆円の無利子国債の市場価値=(1+金利ゼロ×永久
年)÷(1+市場金利1.5%×永久年)=1÷無限大=0円

25兆円の政府紙幣を日銀に引き受けさせた途端、日銀は25兆円の含み
損を抱え、5.8兆円しかない自己資本が消え、一瞬で債務超過になる。
結果は、円の対外信用の下落と金利の高騰です。
http://www.boj.or.jp/type/stat/boj_stat/ac07/ac090220.htm

【無利子国債の愚】
相続税を減免する無利子国債はどうか? 満期20年の無利子国債を70
歳の資産家(あるいは自社株をもつ中小企業主)が、5億円で買ったと
仮定します。

生前に、必要に迫られ、10年後に売ったとします。その時の市場金利
は、5%に上がっていたと仮定します。いくらで売れるか?

5億円額面の無利子国債の市場価格=5億円×(1+金利ゼロ×残存期間
10年)÷(1+市場金利5%×残存期間10年)=5億円÷1.5=3億3333万
円・・・1億6667万円の損

相続税減免のためと言っても、無利子国債は、数年後の金利の上昇が
予想される現在、買ってはならない。こうした計算は、すぐできます。

(注)数年後の金利上昇の予想は、財政赤字の拡大で、増発されるし
かない公債(1000兆円)の価格下落を想定するからです。政府部門は
これを返済できない。国の財政赤字は、年50兆円以上の規模で増えて
行く可能性が高い。そのため、国債価格は下げ、市場の金利は上がり
ます。

20年待って、死後に、国から5億円が償還されたとしても、金利が上が
れば、5億円の現在価値は、大きく下げます。

金利3%としたとき、億円の現在価値は、5億円÷10.3の20乗=5億円÷
1.8≒2.8億円でしかない。こうした運用は、すべきでない。つまり、
利子国債はごまかしですから、売れません。

●米国世帯の負債が07~08年の1300兆円(可処分所得の1.3年分)で、
それ以上は増やせない臨界点に達し、消費を減らしたように、日本政
府の総負債は1000兆円(国税+地方税収13年分)で、極点を迎えたのか
も知れません。以上から立証できます。

そうなると、経済・金融対策を打つための新規国債(規定分40兆円、
経済対策分20兆円)をどう売るか? 

いよいよ、日銀による直接引き受けという、財政法が禁じる手しかな
い。しかし、国会で議論し、法の改正をすれば、その間に、円が売ら
れ、国際信用が下落します。これは、日本の金利の上昇も意味します。

それを避けるため、日銀は、金融機関に国債購入資金を公定歩合
(0.1%)であらかじめ貸しつけ、その後、市場で買ったようにする
方法をとるでしょう。政府紙幣と無利子国債は、債券の価格原理から
して、実行できないと見ています。

米国も日本も、2009年は同時に、増発される国債が、普通の手段では
売れないという時期を迎えます。事態は、緊迫しているのです。

■6.ゴールド価格の上昇

原油、穀物、資源等の国際コモディティが下げる中で、ひとり、ゴー
ルドのみが、再び、価格を上げています。金の伝統的な計量単位であ
る1トロイオンス(31.1グラム)で、2008年末の安値700ドルから43%
も上げ、1000ドル付近を波動しています。(注)円価格では1グラムの
小売価格3180円(09.02.25)

実に余計なことですが、当方に金の販売業から、講演の依頼が来てい
るくらい、ブーム化しています。2008年中の、世界の金取引量は、
1900兆円(前年比+58%)に達し、最高額だったという。(IFSL集計)

1日当たりでは、世界で7.6兆円の取引量です。日本の株の売買は、1日
で1.4兆円付近(過去の半分)に縮小しています。その5.4倍です。米
国の株式市場での1日当たり取引量に匹敵するくらいになっています。
ETF(投資信託)の導入で、大きな市場になった。

金はドル価格で見ないと分からない。円で見れば、ドルと円の為替の
関係が入ってしまうからです。(以下にドル価格と、円価格を対照し
ます。1グラムに直しています)

     米ドルでの価格 円での価格  1ドル
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
2000年平均   $8.9   1014円    108円
2002年平均   $9.9   1296円    126円
2004年平均   $13.2   1472円    109円
2006年平均   $19.4   2287円    111円
2008年平均   $28.0   2937円    105円
09年2月25日   $33.5    3180円     95円
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

ドルでは8年で3.8倍です。年率18%の利回りでした。

金ETF(上場投資信託)の残高は、1200トンを超え、昨年の後半の100
0トンを、200トン上回っています。ETF(証券)の時価総額では、38兆
円です。

資金の流入で上げ、利益確定の売りで下げる。1年の、世界の産金量は
2500トン付近(時価で79.5兆円)です。

世界の金保有は、推計15万トン(時価で477兆円:日本の株価時価総額
の約2倍。米国の時価総額の約半分)です。

2月の価格上昇は、オバマ政権の経済対策の金額が少なく、具体性に欠
けるという判断からです。

金融市場では、米国の金融・経済対策は$2兆(190兆円)では済まず、
09年中に$4兆(380兆円)、$5兆(475兆円)が必要という見方が
多い。

そのため、米国は大量に国債を発行する。FRBが国債を引き受ける。い
ずれも、ドル価値の下落を意味します。

以上を予想し資金がゴールド証券に流れています。特に、欧州からの
ゴールド買い多いという。ユーロが下落しているからです。

ただしこれは、今後も、一本調子に上がることを意味するのではない。
各国政府、ファンド、金融機関、投資家の資金繰りのための、利益
確定売りがあるからです。

ゴールドの上昇は、ユーロとドルの、価値下落の予想を意味します。
売られるのは、多くは、資金繰りの必要からです。

今後の予想をするわけには行きませんが、基軸通貨の価値下落を予想
する人が増えれば、価格は上がります。

【後記】
最近の金融と経済は、1週間で大きく動きます。メールマガジンは有利
です。書いて熱々のものを、即刻送れるからです。

今日は、富山に日帰り出張です。昨年末に、製造業で作成を手伝った
中期経営計画の実行を、どうするかが課題です。

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

【ビジネス知識源プレミアム:感想は自由な内容で。以下は、項目の
目処です。】

1.内容は、興味がもてますか?
2.理解は進みましたか?
3.疑問点はありますか?
4.その他、感想、希望テーマ等
5.差し支えない範囲であなたの横顔情報があると、今後のテーマと
記述の際、より的確に書くための参考として助かります。

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   <422号:増刊+正刊:恐慌寸前になった経済>

  2009年3月11日号:最後は政府と中央銀行の信用問題
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
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 著者へのメール    yoshida@cool-knowledge.com
 著者:Systems Research Ltd. Consultant吉田繁治
■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□

おはようございます。3月末の決算期に向かい、日・米・欧の株価が、
底が抜けた下落トレンドで波動しています。

年初来の3か月での下落は、日経平均が-25%、米国S&P500が -21%、
欧州のFTSE100は -28%付近です。(いずれも米ドルベース) 
1か月に7%~8%の下落幅。

各国は、昨年10月来、可能な政府資金と中央銀行資金を、緊急に貸し
付け、金融と企業の破産を防ごうとしています。GMは、破産処理をし
たあとでの、分割処理の気配。

金融のプールの底にあいた穴から流出する水量が、日々、増えている
ため、増える流出量(損失)をカバーできていない。

●2007年10月以降の、世界の株価総時価の下落は、2800兆円を超え、
09年3月現在、3000兆円に達しているはずです。これが、金融機関・企
業・個人が持つ株券の、一部は表面化し、多くは含み損のままの、損
失になっている。

平均株価の上昇と下落は、実体経済に6か月くらい先行する性質があり
ます。機関投資家等の大口投資は、罫線(グラフの読み)ではなく、
企業の、次期予想純益をもとにしたPERの比較評価(ファンダメンタル
ズ)をベースに、売買されることが多いからです。

世界の金融機関の表面化した損失は、現在進行形で拡大中であり、最
終的な決着が見えていない。そして、金融機関が融資機能を回復しな
い限り、実体経済の回復はないのです。

●米国と欧州の主な14か国(ドイツを除く)における住宅の総価格は、
$60.8兆(5775兆円)がピークでした。

2億軒の住宅として1軒平均で約2900万円です。(注)OECD等の統計を
元に算出した石川達哉氏(ニッセイ基礎研究所主任研究員)による。
週刊エコノミスト08.11.04号。

このうち、少なくとも$20兆(1900兆円:下落幅33%)は、下げる勢
いです。住宅と商業用不動産価格の下落は、2007年後半からの米国に
始まり、半年遅れで欧州に波及し、今は、全世界です。

まだ6合目あたりで、底打ちがいつか、見当がつきにくい。
(注)底打ちは2011年という説が、増えてきました。

●株価総時価の下落3000兆円と、米欧主要国における住宅価格の下げ
の1900兆円を合わせれば、「表面化+含み」の損失は、4900兆円です。
日本のGDPの約10年分で、世界の年間GDP(=総商品金額)にも匹敵
します。

2つの資産価格の下落が震源になり、他の資産担保証券と、社債等の債
券に波及しています。

(注)株も、企業の資本(留保利益)への所有権、つまり処分権をあ
らわす証券です。その担保は企業の利益です。

●世界の金融資産の総額は、2007年末で1京9300兆円(世界のGDPの3.
9年分)と計量されていました。

2000年代の世界は、世界の団塊シニアの貯蓄を源泉に、金融資産(=
金融負債)が、実体経済の増加をはるかに超える肥大の時代でした。
国債、年金基金、保険も、その持ち手にとっては、金融資産です。

【金融資産の、貸借関係】
ある人の金融資産は、別の人の負債です。2007年に1京9300兆円の金融
資産があったということは、別の人に、1京9300兆円の金融負債がある
こと等しい。

そして、金融資産の価値は、借りた人の返済力に依存します。
借り入れが巨額すぎると、金融資産の価値は減ります。

2007年ころから、借りた人、企業、ファンド、金融機関が利払いや配
当、および返済ができなくなった。そのため、金融資産の価値下落(
バブル崩壊)が起こったと見ていい。

例えば、借りた住宅ローンの支払いができない人が増えたから、住宅
価格が下がったのです。

先進諸国で住宅と株だけでも約5000兆円分(26%:1世帯当たり1000万
円相当)の時価が、すでに失われていて、その損失額は、今日も拡大
していると言えば、イメージできるでしょうか。それを示すのが、株
価と、世界に波及した住宅価格の下落です。

【例えれば】
数字が大きすぎるので、個人に縮小して言えば、年収1000万円の人が、
金融的な資産を、時価価額で約4年分(4000万円)抱えた。これが、
上記の、GDPの4年分の金融的資産が意味するところです。

今、26%(約1000万円)を失い、現在時価で3000万円に減ったという
ことになります。

逆に借りた側で言えば、年収1000万円の人が、4000万円を借りていて、
4000万円に見合う利払い・配当・返済ができない。

そのため、4000万円の負債の評価額は3000万円に下がった。各国中央
銀行は、ベース金利をゼロに向かい下げたのですが、今も、利払いと
返済は、困難な状況です。

経済からマネーが抜けたため、08年の秋以降は、実体経済においても、
まず、耐久財・高額品・不要不急の商品から売上が急減し、世界で、
失業数が急増しています。昨年の冬からの、百貨店の売上げの10%
減少はそれを示します。

【GDPの18%が輸出の日本経済】
●特に、2000年代は内需の不振で、輸出依存度をGDPの18%に高めてい
た日本経済は、GDPの減少幅において、世界でもっとも大きい。08年9
月期の、減少前の輸出は、「年間で94兆円」でした。

94兆円の輸出による雇用は、約900万人です。輸出が半減すれば、2倍
の、マイナスの乗数効果(波及効果)で600万人近くの雇用が、過剰に
なります。今、2009年の輸出は半減に向かっています。

【米国世帯の消費減】
ローンに依存していた米国の個人消費の減少は、現在の趨勢である75
兆円(GDP比5%)を超え、100兆円(GFP比8%)になる可能性がありま
す。(注)現在の、米国世帯の貯蓄率増加は、所得の増加からではな
く、ローン消費の減退からのものです。

【94兆円の輸出】
GDPは、企業と個人の税引き前の総所得も示します。日本経済の、08年
10~12月期は、年率換算でのGDPはマイナス13%でした。
09年1月~3月期予測は、マイナス10%でしょう。
09年4-6月期はどうなるか。

09年1月の輸出は、3兆2822億円でした。前年同月比で、46.3%減って
います(09年3月9日:財務省発表) 

この勢いで2009年度の輸出が半減すれば、47兆円もの日本の対外売上
が、減ります。

【2倍の乗数効果をもつ輸出】
輸出は、約2倍の乗数効果(波及効果)があります。このままならGDP
で、90兆円近い減少(-18%)になってしまいます。

大変な事態です。ここまで行かなくても、09年度のGDPの5%減少は、
すでに確実になっています。マイナス10%に近づく可能性も高い。

(注)政府が、こうしたGDP予想値を出さないのは、国民から、経済対
策を強く要求されるからです。本稿では、予想を出さねばならない責
任を、感じています。経営は、企業の売上の直結するGDPの増減予想で、
対策を考えねばならならないからです。

内閣府(旧経済企画庁)や経済産業省(旧通産省)は、一体、何をし
ているのか? 

彼らの、もっとも重要な仕事は、経済の方向付けと予測であるはずで
す。遅行指標を計算し、根拠の薄い願望の解釈をして、経営を誤らせ
ることではない。

【現在の潜在失業率】
2009年度の、日本のGDPがマイナス5%(-25兆円)なら、増える失業
数は(予備軍を含むと)、総雇用6480万人×5%=315万にもなる。

昨年来の6ヶ月の状況が、あと半年続き、GDPが10%(50兆円)もマイ
ナスすれば、増える失業が、648万人です。

「とんでもない事態」を意味します。現在は5%の失業率が、15%近く
になってしまう。(注)失業が20%を超えれば、恐慌でしょう。1929
年~33年の米国の大不況での失業は、25%でした。

日本経済は、中国と同様、「一刻も、対策の遅滞が許されない状況」
にあるのです。米国は自業自得ですが、日本は対岸の火事をまともに
かぶってしまう。輸出依存経済だったからです。

【輸出立国だった中国と日本】
金融の崩壊は、米国発でした。しかし、生産と流通の実体経済の縮小
は、米国を顧客にしていた日本や中国に強く表れます。しかも、その
波及速度が速い。

政局争いや、選挙目当ての政争の段ではない。政府と政治家は、お粗
末です。経済マスコミも、多くは、政府見解を元にしたものです。事
態の急速な展開に、ついてゆけていません。

投資にせよ商品政策にせよ、経営的な意志決定は、1年先、2年先、3年
先の経済環境を想定し、行わねばならない。環境の想定を誤ると、経
営も、誤ってしまう。

日本と同じ対米輸出依存の中国政府は、経済対策に100兆円を使うこと
を発表しています。中国のGDPは、25兆元(375兆円)です。GDP対比で
言えば、日本政府は、その1.3倍(130兆円)を使わねばならない。(
注)100兆円でもいい。

【外貨準備が、経済対策の財源に使えるが・・・】
問題になるのは「政府の財源」ですが、財務省が管理している外貨準
備が、101兆円(09年1月)あります。

それを日銀に売り、円を引き出す手が残っています。日銀は、そのド
ルおよびユーロ債券を買い、円を政府の口座に振り込むことになる。

財務大臣が、これを決定すればいい。抵抗するのは、お金を手元に置
きたい財務省でしょう。日銀が外貨準備を買っても、ドル債が市場で
売られるわけではないので、日本発のドルの暴落は避けられます。

今は、円が60%出資で元が40%を出資し、ユーロのように日中が中心
になった「アジア通貨基金(AMF)」を構想すべき時期です。

生産性を上げて輸出しても、1971年からのトレンドのように、受け取
って貯めたドルが30%や40%も減価するようなら、その利益(国富)
は、消えるからです。今は通貨での属国を抜け出す好機ですが、政府
構想はない。

米英が、折に触れ、日中を分断する策をとっているからです。
輸出の利益は、米国に召し上げられていると言っていい。

これが、製造業が一流の日本経済が、成長できない理由でもある。数
年サイクルで襲う米ドル保有の差損で、あると思っていた利益が、瞬
間に消えるからです。トヨタ、松下、ソニー等が、今、その状態にあ
ります。

【日米経済のリンク構造】
現状の日米経済のリンク構造では、米国経済の回復(言い換えればGDP
の70%を占める個人消費と企業投資の回復)がないと、日本経済の回
復もない。

日本製造業の約半分の市場(顧客)は米国だからです。対アジアへの
輸出も多くが三角貿易で、最終商品の行き先は米国です。中国の米国
への輸出が減ると、日本の対中輸出も減ります。

3億人の米国のGDPは、今後も、どんどん増える。そこをマーケットに
するという企業の、去の決定に問題があったのですが、国内市場の飽
和は、企業をそれに向かわせた。

米国の消費増加が、ローンによるものだったことは誰も知っていまし
た。しかし米ドルは、その意味が分かりにくい「基軸通貨」である。
つまり米ドルはそれ以上の価値はない通貨である。

この基軸通貨体制は、予想できる長期(約10年スパンでは)、崩れる
ことはないという根拠の薄い楽観が、政府・融機関・製造業、および
エコノミストを支配していたのです。

(注)通貨の信用は、他の人が信用して受け取るから価値があるとい
う、信用の無限連鎖でしかない。米ドルの価値は、世界が、米ドルを
輸出・輸入で使うということの価値に依存しています。

2000年代で大手製造業の売上の50%以上が、海外になっています。そ
の傘下に、下請けの中小製造業群(46万事業所:1300万人の雇用)が
ある。製造業の総付加価値額は、110兆円で、GDPの22%を占めます。

作られる製品100個のうち、50個が海外市場に売られていました。

ナンバーワン品質の商品を作って、海外で売る製造業が、日本人の誇
りでした。今回の、信用危機から来た需要縮小が、もっとも大きく日
本経済を襲ったのですから、皮肉です。米ドルを過剰信用したつけで
しょう。

内需への転換は、過剰生産される車や家電を、今の2倍買えということ
を意味し、それは、どう考えても、数年内では無理でしょう。

米国のローン消費が減り、日本の輸出が50%も減ることが続くと、国
内の工場の半分が、いずれ操業停止に追い込まれます。これから少な
くとも3年は、輸出依存だった製造業が、塗炭の苦しみを嘗(な)めま
す。

(注)米国のみならず、欧州も需要縮小では同じです。対中輸出の多
くは、中国の内需ではなく、中国で組み立てる最終商品は、対米、対
欧輸出です。

【本稿】
期待をもって語られる米・欧・日の、政府と中央銀行の対策が、効果
を生んでいません。本稿はその理由を探ります。次に、どう向かうか
を見極め、必要な対策を提言します。診断をしなければ、対策は打て
ないからです。

長いプロローグ(前段)でしたが、以上をまとめれば、
(1)現時点で、世界の株価と住宅での、「表面化+含み損」は、約
5000兆円はある。それが、現在進行形で拡大中である。

(2)09年2月までの、各国政府対策は、効果を生んでいない。損失の
確定ができていないため、必要な資金額もわからないためである。

(3)2000年代で輸出依存を高め、50%の売上が海外になった大手製造
業は、20009年の輸出が半減すれば、25%の売上を失う。

下請けと消費へ波及効果を含むと、600万人近い雇用が、過剰になるこ
とを意味します。日中が、世界に先駆け、大量失業(今のままでは15
%レベルに向かう)という事態を生むのです。

(4)日本には、130兆円規模の、果敢な経済対策が必要であるが、そ
の策を決める政治が、機能していない。経済官僚が作る経済予想が、
実体経済の破断的な進行に、遅れたものでしかないからです。

──────────────────────────────

   <422号:増刊+正刊:恐慌寸前になった経済>
        2009年3月11日号

【目次】

1.世界の金融機関の損失が分からない
2.住宅価格の下落は、いつ止まるか
3.(参考)米国の金融機関の総資産額
4.国有化における最大問題は、元本$54兆のCDSの精算
5.行き着くのは米国債の発行とFRB引き受け

──────────────────────────────

■1.世界の金融機関の損失が分からない

金融機関は、世帯や企業のマネーを預金として集め、手持ちの証券を
売却し、あるいは他の金融機関から借りて資金を集め、それを企業・
世帯・政府・金融機関に貸す(または証券を買う)機能を果たします。

その際に必要なものが、リスクをカバーする自己資本です。

BIS(国際決済銀行)の協定では、国際業務を行う金融機関は、リスク
資産額に対して、8%以上の自己資本を義務づけています。目的は、金
融の連鎖倒産を防ぐためです。

このBIS規制は、任意のものですから、6%や4%でもいい。しかし自己
資本が3%以下や債務超過では、金融業務の執行が不能になります。

貸す側や、その社債を買う側がリスクを想定し、10%に近いあるいは
それを超える高いリスク・プレミアム(金利の上乗せスプレッド)を
要求するからです。(注)スプレッド=社債金利-国債金利

世界の金融機関に、どれくらいの自己資本が残っているかを推計する
には、金融機関が被った現在損失がいくらかを、確定しなければなら
ない。

●政府の対策によって、金融機関に自己資本が回復しないと、金融業
務が再開できず、実体経済に注ぐマネーが減って、マネー不足から生
産と流通が縮小し、失業が増えます。

しかし
・代表的な証券である株や、
・資産担保証券の元になる不動産価格の下落が進行中であるとき、損
 失確定が困難になります。

株と不動産価格の、将来推計をしなければならないからです。

金融機関が3ヶ月毎に公開するB/Sにおいて、表面化した損失の足し算
での合計では、「数ヶ月前の遠い過去の数字」になってしまう。特に
2000年代金融では、CDS(債務保証保険)が、5400兆円もかかっていま
す。

証券価格が下落したとき、CDSが保証しなければならない総損失は、世
界の誰にとっても不明としか、言いようがない。

デリバティブ〔金融派生商品〕は、統計学は分かっても、経済が分か
らないクオンツ達にしか、その本当の中身が見えない。

オプション価格を計算するブラック・ショールズ公式の意味を理解で
き、説明できる金融マンは極小です。実態では、米国の金融機関が作
った証券と言って、信用されていたに過ぎない。

米国の証券化商品を10兆円余も買い、巨額損を出した農林中金(総資
産30兆円:損失額は未定)の、情けない状態を見れば、明らかでしょ
う。

以下は、IMF(国際通貨基金)、イングランド銀行(英国中央銀行)、
ゴールマンサックス(投資銀行)、およびみずほ証券が予想した、金
融機関の損失額を、並べたものです。これらが原典になって、各所で
引用されています。(週刊エコノミスト:09.0.310) 

いずれも、穏便なものです。IはIMF、Eがイングランド銀行、Gがゴー
ルマンサックス、Mでみずほ証券をあらわしてあます。単位は、1000億
ドルです。昨年11月から今年1月の推計です。これら以外に、損失推計
はないと見ていい。

【金融機関の損失推計】
             【I】  【E】  【G】    【M】
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
(1)証券化商品       
・住宅ローン証券      0.8  0.9   -    5.7
・商業用不動産ローン証券  1.6  1.1   -    2.6
・その他の資産担保証券   2.1  3.1   -    11.2
・ローン担保証券      0.3  0.8   -     2.1
・再証券化商品       2.9  2.8   -    2.6
・社債           2.1  18.9   -    16.2
(2)ローン債権
・住宅ローン債権      1.7  -   11.0   10.2
・商業用不動産ローン債権  0.9  -    2.3    4.1
・企業向けローン債権    1.2  -    3.9    2.1
・消費者ローン債権     0.5  -    3.6    1.0
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
合計            14.0   27.5  20.8   57.7  

09年1月13日時点での「みずほ証券」は、5兆7700億ドル(548兆円)で、
もっとも多くの損失を想定しています。しかし各社の、各項目の損失
推計に、バラツキが大きすぎます。

(注1)IMFは、09年1月に上記$1.4兆を、$2.2兆(210兆円)に増加
修正しています。

(注2)上記には、もっとも大きな株価の下落による損失は含まれてい
ません。金融機関の保有株の下落による損失を含めば、損失金額は、
上記に加えて500兆円でしょう。

上表を見れば、「世界の誰も、どこも、金融機関のB/S(貸借対照表)
で確定した損失の集計すらできていない。表面化していない含み損や、
これからの損失想定は、誰も行っていない。株価の下落による損も、
入っていない。」という事実が、明らかになります。

少なくとも2009年度の損失予想くらいは確定しなければ、政府も対策
は打てません。

事実、各国政府・中央銀行の、(1)緊急利下げ、(2)資金貸与、
(3)社債買い取り、(4)資本注入があっても、株価が下げ止まらない
理由は、「金融機関の損失が、まだ明らかではない。政府対策の金額
は、少なくて遅い」ということを示してます。

一例を挙げれば、米国の住宅金融会社(フレディマック、ファニーメ
イ、ジニーメイ等)に、米政府は08年9月18日に、18兆円の資本投入を
し、国有化しました。

この対策で、米国政府は、その市場性のある国債(約750兆円)に加え、
住宅ローンと関連証券の500兆円の負債を抱えることになっています。
国有化されたので、住宅証券はAAA格付けのままで、持ち手は安心と
いうことだった。

しかし、その後の住宅価格の下落で、政府は、住宅金融会社に対し、
追加の18兆円を拠出しています。(09年3月上旬)

住宅関連証券は、AAAの格付けでも、市場価格は50%~60%程度です。
BBBなら額面の5%~10%に暴落です。米国内の住宅金融だけでも、い
くらの政府資金が必要になるか、明らかではない。

上の表の「証券化商品5種」、および「ローン商品4種」の、合計損は、
「今後、いくらに拡大するか、見当がつかない」というのが本当の
ところです。

始末に困ることに、これらの証券は組み合わせて合成され、それに保
証保険のCDSもかかっているので、その損失に誰も見当がつかない。現
在の偽らざる実態です。

米国の金融機関の、現在の、帳簿上の自己資本は、$1.3兆(124兆円)
と言われます。これは、完全に吹き飛んでいます。ゾンビ銀行にな
っているのです

実態では、200兆円と言われる額よりはるかに「巨額」としか言えない
債務超過がある。今のままでは、米国の金融機関に、正常な融資業務
の回復を望むことはできません。(注)欧州も同じです。どんな方法
があるか?

▼対策は国有化しかない

米国と欧州には、ほぼ全部の金融機関に、不足する資本を入れ、国有
化するしか、方法が遺されていません。国有化は、破綻処理です。過
去の株価は、評価がゼロになる。対策費がいくら巨額になっても失業
が20%を超える恐慌を避けるには、これを行わねばならない。

それを行わないと、今後も、株価と不動産価格は一層下落し、月毎に、
100兆円規模の損失が増えて行くでしょう。

(注)今、預金は全額を、政府が保証していますから、事実上は国有
化されているのと同じなのですが。

国有化すれば、経営者の年収も、1年で$50万(4750万円)に下げると、
オバマ政権は言っています。国有化に抵抗しているのが、自己利益と
貪欲が性格になった金融機関の経営者です。

そのため、損失を、政府策で、連結を停止された子会社(SIV:投資目
的特別会社)に飛ばし、債務超過にならない範囲で、小出しにしてい
ます。SIVの子会社の損は、誰も、集計していません。

(注)株価が昨年比で80%下がったシティバンク(総資産は$2兆)だ
けでも、11のSIVを抱え、連結決算の対象外になっています。

上表の、損失見積もりの少なさ(桁違い)と、金額のバラツキも、そ
れを立証します。何をどう集計したのか、いい加減なものです。

金融機関が国有化を避ければ、ますます融資機能が不全になって、実
態経済が縮小し、本当の恐慌に向かいます。

米欧の政府は、果敢に、国有化を推進しなければならないのですが、
オバマ政権は今のところ、国有化を否定しています。

理由のひとつは、オバマ政権のスポンサーが、ウォルー街の経営者だ
からです。国有化の過程では、資産査定をし、経営者の金融不正を、
摘発しなければならない。多くが、禁固の刑事罰を受けるでしょう。

(注)1929年の大恐慌では、議会のペコラ委員会がこれを行っていま
す。

【提言】
国有化は、日本で言えば、かつての郵貯、住宅金融公庫、あるいは政
府系の商工中金のようなものです。

金融業務が、無くなるわけではない。株主が消え、経営者は追放され
ます。彼らの、ポジションにしがみつくエゴと自己利益で、世界を恐
慌に陥らせるのは、いかにも忍びない。

米欧の政府は、即刻、全金融機関の、国有化を果たすべきと提言しま
す。ただし国有化すれば、2000年代の米欧の金融機関の方法だった、
価値が疑わしい証券化に規制がかかり、ヘッジファンドの多くも消え
ます。

■2.住宅価格の下落は、いつ止まるか

サブプライムローン問題が起こった理由は、2007年を分水嶺に、世帯
の所得に対し大きすぎる住宅ローンの、利払いと返済ができなくなっ
たからです。

米国世帯が抱える債務は、世帯の可処分所得の1.4倍です(2008年末)。
住宅ローンだけでも、$11兆(08年9月末)の負債です。他に、車や耐
久財のローンとカードローンが$2兆はある。

可処分所得は、税や社会保障費を引いた所得です。年収800万円の世帯
で約650万円でしょう。可処分所得650万円の世帯が、全平均で、910万
円のローン負債を抱えています。

米国の世帯は、650万円の可処分所得のうち、その20%(130万円)を
債務の支払いに充てています。

米国で半分の世帯(5000万軒)が、住宅ローンを借りていると仮定す
ると、その負債額は、1820円相当になる。これらの世帯で言えば、可
処分所得の40%(260万円)が、債務の支払いに相当します。

使える所得は、650万円-260万円で、390万円に減ってしまいます。こ
れでは、生活困窮になる。これが、米国のローンの破産と消費減との
原因です。

米国の平均住宅価格は、過去28年で約6倍になっています。年率平均で
6.6%とい高い上昇率でした。1979年には$5万だった平均価格が、20
07年では$30万です。2000年代に、年率10%以上で急騰した。今、こ
れが30%程度下げて、$21万(約2000万円:新築住宅)です。中古の
平均価格は、$17.5万です。

サブプライムローンのデフォルト問題が、住宅証券価格の下落になっ
て勃発した2007年の8月、「米国の住宅価格は30%下げ、落ち着く」と
見ていました。

今、40%以上の下げの可能性が、高くなっています。
金融機関の損失のため、住宅ローン融資が回復していないからです。

米国の住宅ローンには、1929年の大不況の経験から、「ノンリコース
ローン」と、「住宅ローン金利が下がれば、安い金利のものに借り換
え可能」という条件がついています。

ノン・リコースローン(非遡及型の貸し付け)では、ローンで買った
住宅が値下がりしたとき、借りた人は、担保の住宅を手ばなせば、ロ
ーン返済から解放される。

そのため、住宅の値下がりは、住宅証券を最終的に買った金融機関や
投資ファンドの損になる。これが、前表の、住宅証券での損失です。

このため、米国の住宅ローン制度は、「上げは上げを呼び、下げは下
げを呼ぶ」という性格になる。

上げるときは、ローン返済が不能でも、借りて買う人が出ます(これ
が2000年代)。

逆に、住宅価格が下げると、多くの人が住宅を手放し、ローン支払い
から解放されることを選ぶからです(2007年以後)。

2008年8月時点で、米国世帯のうち、住宅価格がローン残額を下回った
世帯は、1050万軒(ネガティブ・エクイティの損失額82兆円)と調査
されています。(コロンビア・ビジネススクール:北井義久氏(伊藤
忠調査情報部))

まだ、これらの多くは、中古住宅市場に、出ていません。そして、20
09年~2010年には、2000万軒〔全米の1億軒の20%〕を超える住宅が、
住宅価格がローン残を下回るネガティブ・エクイティの状態になると
予測されます。

2000万軒の全部が、フォアクロージャー(抵当流れ)として、住宅市
場に出るわけではない。しかし、2009年、2010年と、現在のトレンド
のように住宅価格が下げれば、相当量(1000万軒以上)が手放されま
す。

それは、すでに1年分の在庫がある住宅市場に、大きな下落圧力となり
ます。2年分以上の在庫に、増えるからです。下がる見込みのときは住
宅は売れません。

加えて、ローンを組む政府系金融機関も、融資に慎重になっていて、
2000年代のように、時価の100%の担保を見ることはない。最大でも6
0%でしょう。ローン証券が、売れないからです。

以上のような状況を考えれば、全米平均で2000万円付近に下がった住
宅価格は、2009年、2010年と下げ続け、2011年に1500万円付近になっ
て、やっと、下げ止まるという予想ができます。

600万円の頭金、900万円のローンという感じです。現在価格からは、
更に25%の下げが想定できます。(注)1990年代半ばの、米国住宅価
格が$15万でした。

その前に問題になるのが、米国世帯の現在の過剰負債です。総額で$
3兆の過剰負債、言い換えれば、利払いと返済ができない負債が想定で
きます。

現在の総負債$13兆のうち、$3兆(285兆円)です。これは、金融機
関の損に、上乗せされるものにしかならない。世帯も企業同様、「返
せないものは、返せない」からです。

2009年、2010年と増える、こうした住宅ローン関連の不良債券に対し、
オバマ政権の史上最大という$7870億(75兆円:09年2月17日)の、金
融・経済・住宅対策費がいかにも少ない。

今のような政府対策費の少なさのままなら、住宅価格は、抵当流れの
在庫が溢れて、金融機関の融資機能の停止から新規ローンも組めない
ので1500万円を大きく下回るはずです。

●1200万円(ピーク価格の40%)あるいは1000万円(三分の1)に向か
うかも知れません。

【提言】
全金融機関を国有化し、野放図ですが「いくらでも、お金は出す」と
いうことしか方法がない。繰り返しますが、現在のように、金融機関
の自己資本が消えたままでは、金融機能の回復はない。信用縮小が激
化し、世界恐慌になる。

未だに確定せず、氷山の一角が集計されているにすぎない金融機関の
損失(IMF想定210兆円:みずほ証券推計548兆円)は、世界の株価の下
落で、おそらく、今、1000兆円を超えています。米国で500兆円、欧州
で500兆円でしょうか。

米国の主要金融機関の自己資本が$1.3兆(123兆円)であることは述
べました。これが、完全に飛んでいることは了解されたでしょう。英
国を含む欧州も、同じです。

■3.(参考)米国の金融機関の総資産額

米国の主要金融機関の、「帳簿上の」総資産額を示しておきます。帳
簿上ということの意味は、時価評価されていないということです。総
資産で、大きな順です。($1=95円換算)
         
【08年12月末総資産額:日経新聞09.02.26】
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
JPオルガンチェース     263兆円
シティグループ       185兆円
バンカメ          173兆円
ウェールズファーゴ     123兆円
ゴールドマンサックス    84兆円
モルガンスタンレー     63兆円
以下27兆円~9兆円規模が続く
~~~~~~~~~~~~~~~~~~
概算合計         1000兆円

主な金融機関16社で、総資産1000兆円です。
推計では、500兆円が、時価ではすでに消えた資産でしょう。
今、米政府は、上位金融機関の資産査定に入っています。

各金融機関は、3が月毎に、数兆円~数千億円の損失を計上しています
が、その額は債務超過(破産)を避ける額に、調整されたものにすぎ
ません。

政府が国有化し、保証して金融機能を回復するしか方法はない。米政
府は、民間の出資を求めると暢気(のんき)なことを言っていますが、
「誰が出すのか?」 

民間と言っても、政府の意を受けることに慣れた日本の金融機関しか
ないでしょう。預金を政府が保証しているからです。金融が破産状態
にある欧州やスイスに、できるわけもない。彼らも、米国の金融機関
と同じ損失内容です。

しかし、日本の株価が後1000円下げて6000円(日経平均)になると、
それもできません。

日本の金融機関(銀行・生保・損保・証券会社)の自己資本そのもの
が毀損(きそん)され、日本政府が再び、資本注入しなければならな
くなるからです。

あとは中国しかない。しかし中国も、輸出の急減で、海外への資金供
給はできなくなっています。

米国政府や日本政府は、「財源の裏付けのない対策」を言うだけです。
経済対策にはマネーが必要ですが、どうやって調達するかを言わない。
いい加減過ぎます。日本の政治家は、財務省を叩けばいいいとしか
考えていません。

■4.国有化における最大問題は、元本$54兆のCDSの精算

CDS(債務保証保険)は、
・金融機関がリスク証券(株、社債、住宅証券等)を買うとき、
・デリバティブを作るクオンツ達が計算した、数%の保険料(プレミ
 アム)を払い、
・回収リスクに保険をかけるものです。

1億円の,利回りは高いが信用度が低いA社の無担保社債を買うとしま
す。その会社の破産リスクが、1年間で3%と仮定します。

B社はC社に3%(300万円)を払う。C社は、1年以内にA社が破産し、デ
フォルトに陥ったときは、1億円をB社に対し、保証しなければならな
い契約です。A社の破産がなければ、C社は300万円が利益です。

上記のシティバンクは、元本100兆円を保証していると言われます。
CDSは相対の簿外取引なので、正確なところは分からない。公開市場は
ない。

CDSの契約には、(例えば)総資産185兆円のシティバンクが国有化さ
れると、解消しなければならない特約がついています。米政府は36%
の資本をシティに入れ、準国有化しました。(09年2月)

36%の資本注入にした理由は、51%以上の資本を入れ、国有化すれば、
総額が見えないCDSの精算問題が生じるからです。

しかしシティバンクが、100兆円の回収保証していると言っても、その
全額を払わねばならないわけではない。「有料の保証人」ですから、
今後1年で破綻する証券の精算処理では、埋め切れない部分の保証です。

この要保証額が、見えない。経済が悪化し、住宅価格も下げると、要
保証額が膨らむからです。

08年9月15日に倒産したリーマン・ブラザースの破産処理(CDSは40兆
円)では、実に87%が減額されています。価値は13%だった。

どこかの金融機関(発表がなく不明)が、リーマンのCDSの精算処理で
40兆円×87%≒35兆円の保証損を被っています。これは、おそらく
FRBの資金投入で、秘密裏に埋められているでしょう。

リーマン・ブラザースが破産した後、米政府は500名の専門家チームを
組んで、リーマンの全資産の査定をし、CDSの調査もしているはずです
が、なぜか内容は公開されていません。人々が不安になり、預金や出
資金の取り付けが起こることを懸念したためです。

住宅金融会社の国有化では、CDS対象証券は20兆円で、住宅の担保もあ
ったので、10%減額で済んでいます。(08年10月)

米欧の金融機関の国有化では、$54兆(5130兆円)のCDSの精算が迫ら
れます。総損失がいくらになるか、見当がつかない。

軽微に見て、90%の精算価値が残っているとしても、513兆円の政府資
金が必要になる。80%なら、1000兆円です。

方法は「お互いに掛け合ったCDSの元本を同額で解消する」ことです。
CDSへの政府対策は、まだ不明です。これが、今の米国株、欧州株の下
落の背景にある巨(おお)きな爆弾です。

しかし、CDSの解消による必要資金を恐れれば、国有化は不能です。
そうなると、金融機能の不全から恐慌に向かいます。

CDSについても、米政府、欧州政府がその解消損を保証するということ
でなければならない。その必要額がいくらか、見当はつきませんが。
放置するよりましです。

■5.行き着くのは米国債の発行とFRB引き受け

米国政府の国債の総残高は、GDPの70%くらいで、約750兆円程度です。
GDP比で160%(長短で838兆円:07年度)の国債を抱える日本より、一
見では少ない。
http://www.mof.go.jp/jouhou/kokusai/saimukanri/2008/saimu03-2c.pdf

しかし08年9月以後は、これに、国有化した住宅金融会社の負債(500
兆円)が加わっています。実質的な、米国債は1250兆円で、年間のGD
Pの100%と見なければならない。

2009年度は、直近の米政府発表では、政府赤字の拡大と金融・経済対
策費で、$2兆(190兆円)の新規債の発行予定とされています。

今、欧州、中東、中国、日本に、巨額発行される米国債を買う余力は
ない。買っても、せいぜい数10兆の規模でしょう。

(注)金融機関の国有化には、とても足りません。今のところ、オバ
マ政権は、金融機関の国有化を否定しています。本稿は、信用縮小か
らの世界恐慌を避けるには、米銀、欧銀の国有化が必要だという提言
です。

米国の金融機関に、これから大量発行される国債を買う余力はない。
超低利の国債(3月現在の短期金利は0.37%:長期金利3.01%)を買え
るくらいの現金があるなら、もともと、国有化の必要はない。

米国株の1000兆円の下落で、マネーを失った個人投資家は、ウォーレ
ン・バフェットでも、こうした国債を買えなくなった。

予定はされていなくても、2009年、2010年に必要な国債の引き受け手
は、FRBしか残っていません。政府が数100兆円の国債を発行し、それ
をFRBが買い、ドル紙幣を政府口座に振り込む。その額がどれくらいに
なるか。おそらく、2009年で500兆円規模でしょう。

現在、FRBの資産総額(=負債総額)は$2兆425億(194兆円:09年1月
22日)です。昨年秋以降の、金融機関の救済対策のため、110兆円の増
加資金供給をしています。(B/Sは以下)
http://en.wikipedia.org/wiki/Federal_Reserve_System

FRBのB/S(貸借対照表)は、今後の金融対策を含むと、$5兆~$6兆
(570兆円)に膨らまざるを得ません。しかしFRBの自己資本は、$41
7億(総資産の2.1%)しかない。

08年10月以後、金融機関の不良債券を100兆円も買っているため、B/S
の時価の内容は、完全に債務超過です。

しかしFRBには、無限の通貨発行権があります。債務超過と言っても、
民間金融機関とは異なります。政府が信用される限りは大丈夫でしょ
う。(注)政府が信用されないと、話は別です。

国債の金利は、上記のように低いままでなければ、ベース金利が上が
ることになって金融対策が効果を生みません。つまり、FRBは長期金利
で3%レベルの低利の米国債を、大量に買うことになる。

低利の国債が大量に売れることを「国債バブル」と言います。本来は、
金利が上がって、下落しなければならない国債を、FRBが高く買うか
らです。でも・・・政府信用があれば、OKです。

(注)ウォーレン・バフェットは、最後は国債バブルの破裂、つまり
金利の高騰と言っています。金融の総責任者であるボルカー(経済諮
問会議議長)は、そこまで想定しているかどうか。

さて・・・問題はそれからです。結果はどうなるか? 米国には対外
債務が、2000兆円あります。この点が、対外債権を610兆円もつ日本と、
根本的に違う点です。

FRBしか国債の引き受け手がないと市場が認識すれば、2000兆円のドル
債を持つ欧州、中東、中国、日本がどう反応するか、です。

普通は、ドルの暴落を予想し売ります。ドルが30%下げれば、3%程度
の金利は、まるで無意味になるからです。事実、今、160兆円の外貨準
備(世界最大)をもつ中国政府内では、ドルの下落で、中国政府が損
をしないため、ドル債を売るという議論が絶えないのです。

世界恐慌を避けるには、米国は、いずれ、全金融機関の国有化を迫ら
れる。そのためには、見当がつかない額の国債を、米政府が発行する
方法でしか、国有化必要資金が生めない。

世界は買えないので、FRBが引き受けるしかない。そうなると、低金利
の米国債バブルでの損を恐れた海外がもつドル債が売られドルが暴落
する。早ければ数ヶ月後、遅くとも秋ないし年内でしょう。

【直近の市場】
09年3月10日の、米国債市場では、今週に実施される$648億(6兆円)
の国債発行を控え、国債価格が下げ、0.12%と、わずかではあります
が長期金利が上がっています。(ダウ・ジョーンズ:09.03.10)

2007年と2008年は、FRBの利下げのため、米国債の価格は上昇していた
のです。2009年は、この利下げが、効かなくなっています。


2009年の米国債市場は、6兆円の発行でも、「大量発行」との反応を示
すように変わっています。
http://www.nikkei.co.jp/news/kaigai/media/djCRN6526.html

ところが政府予定では、09年に$2兆(190兆円)の発行が控えていま
す。それを売らねば、政府による経済対策が打てません。

本稿で述べた、金融の国有化資金ための発行を行い始めるとどうなる
か。言わずもがな、でしょう。

(注)今は、米国が海外にもつ資産(1650兆円)を、米国が売ってい
ます。これは米国自身が、円を含む海外通貨を売ってドルを買うこと
になるための、相対的なドル高です。国際決済資金としてのドルが不
足し、米・欧・英からの投資で経済を発展させていた東欧を含む新興
国は、自国通貨を下落させて、ドルを買っています。これは「つかの
間」のことです。

オバマ政権が、2009年度の、本当の国債発行額($数兆)を明らかに
する時期が、米ドルにとって危ない。

経済は、失業が陸続と増える恐慌へ、突入する寸前になってきました。

【後記】
米ドルの価値は、欧州が米国に証券投資し、中東、中国、日本が米国
債を買って保有するということから来た価値です。この中で、特に今
は、中国が、保有する外貨準備160兆円分のドル債を、どうするか、こ
れにかかっていると見ていい。

日本は、ドル債を世界でもっとも多く持っていますが(対外資産610兆
円)、政府が売らないというだけです。昨年秋以来の貿易赤字で、日
本は、増加買いする能力は、なくなってしまった。

日本が巨額の貿易黒字を出していた時代は、第一次オイルショック(
1973年)から40年余も続きました。昔日(しゃくじつ)のことになり
ました。

日本政府に対し、財務省が管理する外貨準備101兆円を日銀に売って、
政府が円資金を得て、それを経済対策に使うことを提言します。それ
を行わないと、2009年、2010年と、失業率が15%に向かい高まります。

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