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陰 陽 日 本 現 代 史
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2008年1月11日 発行(毎週金曜日発行/5週目除く)
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第2話 政治の呪術
都内・某小学校−。
この学校には、今、注目されている一人の少年がいた。
4年生になる、安倍 晴明(あべ はるあき)だ。
彼は先日、“超能力者大集合”というテレビ番組に出演し、並外れた力を見事に発揮した。
離れた場所から、テーブルの上にあるグラスに向けて呪文を放つと、グラスは粉々に砕け
散るのだった。晴明の噂はたちまち学校じゅうに広まり、一躍クラスの人気者になったと
いうわけだ。クラスメートが口々に、スプーンを曲げてくれ、花瓶を浮かせてくれなどと
注文するので、晴明も人気を取ろうと、次々にやりこなしては、みんなを驚かせていた。
晴明が右手に握る鉛筆を、じっと睨み続けている。すると突然、鉛筆は真っ二つに割れ、
上の部分が机の上に転がり落ちた。クラスメートたちの間に、うぉぉ、という歓声がわき
上がった。
「すごいなお前、生まれつきそんな技を持ってるのか?」
クラスメートの一人が言った。
「生まれつきじゃないさ。父さんに教えてもらったのさ」
晴明は、さらりと言った。
「と、父さんって・・お前、あの噂の・・?」
「や、やめてくれよ。その話はしないって約束だぞ!」
晴明は急に顔色を変えて言った。
晴明が家に戻ると、誰かお客が来ているようだった。
「おお!晴明、帰ったか」
父親の益材(ますき)が晴明を呼び止めるようにして言った。
父親の横には、奇抜な服装をした中年と、若いお姉さんが腰掛けていた。後ろの方には、
太鼓やラッパなどが置かれており、のぼりが立て掛けてあった。
(こ・・この人たちは・・!)
晴明は、ハッとした。
「晴明、お前も大きくなったことだ。これから政治の呪術についても伝授しようと思って
いる」
父親は晴明に、あらたまって言った。
「セージのジュジュツ・・?」
「知っての通り、われわれ左上位は、日本に民主主義を根ざすために活動をしている。そ
の民主主義を高める上で、なくてはならないのが”陰陽説”の教えである。お前には陰陽
説の基本を、少しずつ覚えていってもらいたい」
父親は晴明に促した。
「こんにちは晴明君。私が左上位リーダーの蘆屋 道満(あしや どうまん)です。よろ
しく」
「メンバーの津宵 恩奈(つよい おんな)です。よろしくね、晴明クン」
お客の二人が、晴明に挨拶をした。晴明も軽くおじぎをした。
「晴明君、世の中には陽と陰があることは知っているよね」
蘆屋は、晴明に問い掛けた。
「はい。プラスとマイナスのことですね」
晴明は答えた。
「その通り。夏が過ぎれば秋が来て、やがて冬になる。冬が過ぎれば春が来て、やがて夏
になる。この世には、陽と陰があり、これらが伸縮することによってバランスをとってい
る。陽が膨張すれば、やがて収縮し、陰に転じる。陰が膨張すれば、やがて収縮し、陽に
転じる。これが陰陽説の法則だ」
蘆屋は両手を大きく広げ、晴明に説明した。蘆屋は続けた。
「陰陽説というのは自然界のことだけを言っているのではない。たとえば晴明君。世間の
人間はキミの考えや行動に対してあれこれ難癖をつけてくる。しかしキミはひとりの人間
だ。自分の意思によって考えたり行動したりしている。”集団”という陰に対して、”個人”
という陽。これも陰陽関係にあるんだ」
「ふぅ〜ん」
晴明はうなった。
「他にもいろいろある。”国家”という陰に対して”国民”という陽。”日本”という陰に
対して”外国”という陽。ありとあらゆるところに陰陽関係は存在する」
「肝心なことを忘れているわ。”男”という陰に対して”女”という陽。これも陰陽関係に
ある。分かるかな、晴明クン」
男勝りの津宵が、蘆屋の説明に口をはさんだ。
「と、とにかく、陰という障害に対して、陽はいかに立ち向かっていくべきか、我々はこ
うしたことを常に考えているんだ」
態勢を立て直しながら蘆屋は言った。
「そこでだ。早速だが晴明君、キミも”政治の呪術”にチャレンジだ。お手並み拝見だ」
蘆屋が晴明に身を寄せながら催促した。
「しかし、まだやったことが・・」
晴明が戸惑っていると、津宵が一枚の紙を渡しながら晴明に言った。
「ここに書いてあることを繰り返し言えばいいのよ。あとは晴明クンがいつもやっている
通り。すべての日本人に対して言い聞かせるように、呪文を唱えてほしいの」
晴明は津宵から紙を受け取ると、それを眺めた。
「”国家がどうあるべきか考えるな、自分がどうあるべきか考えろ”・・?」
そこにはいかにも立派そうな呼びかけが書かれていた。しかし晴明は小学生。その文言
に含まれる深い意味合いまでは理解することができなかった。
「分からなくてもいいんだよ。呪文を唱えてくれれば。さあさあ、外へ行こう」
蘆屋が催促した。
晴明たちは、すぐ近くにある空き地に出た。
「ここからなら、空も一面に見渡せる。呪文も広く伝わるだろう。さ、やってごらん」
父親をはじめ、蘆屋、津宵が晴明の後ろから見守っている。
晴明は両手を天にかざし、頭に日本の人々を思い浮かべ、繰り返し叫んだ。
「国家がどうあるべきか考えるな、自分がどうあるべきか考えろ。国家がどうあるべきか
考えるな、自分がどうあるべきか考えろ。国家がどうあるべきか考えるな・・」
呪文は何十回か繰り返された。晴明が疲れ果て息を切らせていると、蘆屋が晴明のもと
に近づいてきた。
「よーし。そのくらいでいいだろう。キミはすべての日本人のために、いいことをしたん
だよ。いいことをすると気持ちいいだろ」
「何も起こってないよ。いいことをしたって何のこと?」
不思議なことを言う蘆屋に対し、晴明は尋ねた。
「そのうち分かるさ。キミは日本人のものの見方や考え方を変えることに協力してくれた
んだ。楽しみだなぁ、な、津宵」
「ええ、楽しみだわ」
喜ばしい表情で空き地から引き揚げる蘆屋に津宵、そして父親・益材の左上位一味に、
晴明は首をかしげると同時に怪しさを感じた。
【続く/次回 第3話 左上位の政治観】
「陰陽日本現代史」(マガジンID : P0006549)
発行者 :小林 弘
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